インタビュー
居抜き開業を成功させたオーナーに、成功の秘訣や開店までの裏話などを伺います。

武蔵野の面影残る小金井
街の人に愛される自然食ダイニング

東京都小金井市。かつて、どこまでも荻(おぎ)の原野が続いていたという武蔵野地方の只中に位置するこの一帯には、現在でも住宅街に隣接して、社寺の杜や畑、豊かな緑が残されている。市役所最寄りのJR武蔵小金井駅は、市北部にある小金井公園の観桜のため、大正末期に開設。新宿から中央線快速で30分、近年では駅前にタワーマンションも建設され、都心部への通勤世帯に人気のベッドタウンである。
その武蔵小金井駅北口の有名スーパー、量販店、飲食店が集まる繁華街の一角に、今回訪れる店がある。「自然派ダイニング Bare GREEN(ベアグリーン)」。2014年6月、店主の山中康平さんが友人とともに開いた、国産、有機・地場、無添加の素材によるオリジナルな自然食やドリンクを提供するダイニングバーだ。“そのままの飾らぬ緑”を意味する店名の通り、ナチュラルな内装がたいへん心地よい。
営業時間は昼夜二部制。料理には、地元農家から直接仕入れる新鮮地場野菜や山梨の有機野菜をふんだんに使用する。ランチは昼はメインディッシュ、手作り野菜おかず2品、サラダ、十六穀米の「日替わりプレート」(700円)などのワンプレートが700~850円台。ディナーは、メイン、おかず3品、ライスの「夜カフェご飯セット」(1,500円)、「夜カフェバーセット」(500円、ドリンク代別途)など、お財布にも、身体にも優しいメニューが盛りだくさん。
ドリンクも埼玉・川越「COEDO」シリーズ、大阪・箕面ビール「ヴァイツェン」などの国内産クラフトビール、ホットでもお酒と割っても楽しめる「自家製ジンジャーエール」などの豊富なラインナップを揃える。「栄養あるバランス取れた食事をリーズナブルに提供したいんです」という山中さんの想いが見事にかたちになった店である。

人見知りをなくしてくれた居酒屋バイト
当初のコンセプトは“独身男性のための自然食”

名古屋出身で、関西にある大学に進学した山中さん。飲食に関わるきっかけとなったのは、学生時代4年間続けた居酒屋でのアルバイトだった。人見知りをする性格だったが、関西では喋れてなんぼ。酔客の相手をしているうちに、いつの間にか人見知りは治り、飲食業の楽しさを知った。「いつか一緒にカフェやバーをやろう」という友人との約束のため、卒業後は地元のフレンチ居酒屋店に就職し、店長として、厨房、接客、店舗運営、人材採用など幅広く経験。その後、都内のイタリアンレストランに転身し、一から料理の基本を身に付けた。
独立開業を考え出したのは、2013年夏頃のこと。「失敗するならまだ若い今のうちだ」と、大学時代に夢を語り合った友人と一緒に、開業準備に乗り出した。コンセプトは「独身男性のための自然派レストラン」。仕事に追われ、惨憺たる食生活を送る若い男性会社員たち。彼らが何故、外食でも健康的な食事を摂ろうとしないかというと、ちゃんとした食事は高いから。それなら、自分たちで栄養あるものを安く食べられる店を創ろう!というわけである。
当初は、ターゲット層の多い茅場町、八丁堀などの都心部で物件を探した。が、この辺りの地域は当然家賃も高く、なかなか手が出ない。そこで、「働く人たちが帰ってくる場所で開こう」と視点を変えて、めぐりあったのが武蔵小金井の現物件。居酒屋の居抜きで、元々の厨房機器やカウンターを上手に活かし、壁に木材を貼ったり、椅子カバーをミシンで縫ったり、手作りの労を厭わぬことで、開業コストを抑えながら、あたたかでアットホームな空間を創り上げることに成功した。

フタを開けるとまったく違っていたお客様層
ご縁に恵まれ食材と人との繋がりづくり

こうしてオープンした店だったが、すぐに分かった衝撃の事実は、ターゲットとした若い男性層は、店の営業時間帯にはこの周辺にいない、ということだった。彼らが職場を後にするのは夜遅い。当然、空腹を抱えたまま自宅の最寄り駅に戻るはずもなく、都心部で夕飯を済ませてきてしまうのだ。代わりに店に来てくれたのは、地元・小金井にお住まいやお勤めの方々。むしろ女性が多く、方向転換を余儀なくされた。「そんなにお洒落な店でもないのにヤバイ!と(笑)。ランチへのパンメニューやフレンチトーストの追加など、お客様層に合わせた変更を行いました」。
あまりよく知らずにやって来たこの街だが、嬉しい“予想外”にも恵まれた。開店から1ヶ月程経った頃、「せっかくだから地元野菜を取り入れてみたら?」とのお客様の会話から、初めて、小金井に農家がたくさんいることを知った。さっそく買い付けに向かうと、農家の方々と繋がりができ、交流会に参加。そこで一気に知り合いの輪が広がった。「早い段階で店のことを地元の方々に知っていただき、多くの方に店に来ていただけるように。たいへん素晴らしい機会でした」。
それらの農家さんが作る地場の旬野菜や江戸東京野菜は、イタリアンで鍛えた山中さんの手により、様々なメニューに展開される。野菜の旨味や甘さが引き出された「温野菜のバーニャガウダ」(540円)、「彩り野菜の鉄板バジルオイル焼き」(850円)などで、その色とりどりの姿が楽しめる。だが、ビーガン専門というわけではなく、出身地の名物料理「名古屋風味噌カツプレート」や「豆腐入りロールキャベツプレート」(いずれも850円)など、肉や卵も用いて、誰でも気構えずに利用できるちょうどいいバランスの野菜料理を提案している。
小金井は毎週のようにイベントが開催され、住民たちも自分から活発に動くクリエイティブな人たちが多い。店にもものづくりやアート活動を行うお客様の作品やCDが置かれている。「オープンから2年、意図せず面白い方向に広がってきました。自分の存在価値に初めて気づかされた感じ。最初はここで一発当てて、早く都心へと思っていました。でも、今ではまったくそんな気持ちはなく、この地域が大好きに」。未知の土地で開いた店は、山中さんにとっても、街の人々にとっても、今やなくてはならない大切な存在になっている。

将来は中央線西エリアでのれん分けを
意欲ある若者の夢応援したい

そういえば、一緒に店を開いた友人はどうしているのだろうか?「実は彼はつい最近まで半年間、ハネムーンで世界一周旅行に出かけていて。本当にやりたいことがいっぱいある人なんです」。パートナー不在の6ヶ月だったが、コンパクトな店のため、意外と一人でも店を回せた。その友人も新たにやりたいことがあるようなので、店に帰ってこなくてもいいよ、と告げているという。これまでの関係にこだわらず、お互いの自由を尊重する姿勢が実に爽やかだ。
「今後はまずは小金井での知名度を上げていきたい。この辺では知られた存在と思っていましたが、先日、駅反対側の南口のイベントに出展したら、全然うちの店が知られていない!と判明して。一気に“やるぞ!”とテンションがアップしました(笑)」。その先には、中央線沿線の三鷹~立川エリアで同業態の複数店舗展開計画を描いている。
「のれん分けみたいな形で出来ないかと思っているんです。僕は26歳で起業。お金の面では裕福ではないけど、自分たちで創り上げる喜びを若い人たちにもぜひ感じてもらいたいんです。自分も若いのにすごいね、とよく言われるのですが、むしろ若いからやっていける、失敗もできる。開店までの道筋がある程度保証されていれば、挑戦しやすいし、会社で働くよりも絶対楽しいから」。新天地で芽吹いた山中さんの夢の種は、これからもどんどん枝葉をのばして広がっていきそうだ。

山中 康平さん
1988年愛知県生まれ。大学時代の居酒屋アルバイトで飲食業の楽しさに目覚める。卒業後、フレンチ居酒屋店長を経て、都内イタリアンレストランで厨房修行。14年6月、友人と武蔵小金井に「自然派ダイニング Bare GREEN」オープン。国内産、有機・地場、無添加の安心・安全な食材を使用したオリジナル自然食やドリンクで、地元を中心に評判を呼んでいる。

自然派ダイニング BareGREEN
住所:小金井市本町5-12-15白星加藤ビル2F(JR武蔵小金井駅北口徒歩1分)
TEL:042-403-2176
営業時間:ランチ 11:30~15:00/ディナー 17:30~22:00
定休日:日曜、第2・第4月曜
店舗情報:FacebookHot Pepper