インタビュー
居抜き開業を成功させたオーナーに、成功の秘訣や開店までの裏話などを伺います。

グルメの街亀戸に家庭的な麹料理の店誕生
バリエーション豊かな麹料理と日本酒が楽しめる

麹料理とお酒「にこにこ」は、亀戸駅から徒歩4〜5分。駅南側の国道14号線(京葉道路)を渡って2本目の路地にある。小判を持った招き猫が描かれた看板が目印だ。
亀戸は、菅原道真を祀る亀戸天神をはじめ多くの神社仏閣の門前町として栄えた街。川が多くかつては水害に悩まされたが、スーパー堤防や災害時の避難広場を兼ねた公園が各所に造られ現在は災害に強い街に生まれ変わっている。駅の北側は十三間通り商店街をはじめ商店街が多く、路地には亀戸餃子や亀戸ホルモンなどB級グルメの有名店をはじめ飲食店が建ち並んでいる。一方、国道14号線より南側は適度にお店のある住宅街が広がっている。

「にこにこ」は隣近所に飲食店が並ぶ一角にあり、外観は竹格子の和風な佇まい。店内はオフホワイトと白木調でまとめられ、明るくて品の良い純和風の造りになっている。
看板メニューの麹料理は、魚数種類・鶏肉・豚肉のほか一品料理にも麹を使ったものがありバリエーション豊か。一番人気は“さばの塩麹焼き”。そのまま、香味醤油だれ・柚子胡椒ポン酢だれと3種類のバリエーションがあり、どの味もお酒ともご飯とも相性が抜群。“あじの塩麹・ねぎ味噌焼き”や“いか刺しの塩麹と醤油麹漬け味比べ”も人気メニューだ。“本日の御膳”は、前菜三種・サラダ・小鉢・メイン・ご飯・味噌汁・漬物という内容でなんと880円。お一人のお客様も多いので、冬場は一人前の“若鶏の鍋”もメニューに加わった。日本酒の品揃えも豊か。銘柄は常時入れ替わっており、珍しい銘柄と巡り会える楽しみがあると日本酒通のお客様にも喜ばれている。

「外とつながっていたい」という思いを叶えた開業
店に入った瞬間「ここにしよう!」と意見が一致

藤原常雄さん・和子さんご夫妻が飲食店開業を志したのは4年前。常雄さんはチェーン店経営の会社に勤め、東急ホテルのシェフや大使館のシェフに洋食を、後に和食も学び、さまざまなレストランで腕を振るっていた。その後食材加工のメーカーに勤めていたが、目の病にかかり次第に目が不自由になっていった。会社を辞め家に閉じこもっていた時期には、社会と縁が切れてしまったような気分になったという。「やはり外とつながっていたいという気持ちがどこかにあって、しんどかったけれども楽しかった飲食業をやりたいと思ったんです。もう勤めに出るのは厳しいので家内に相談したら、一緒にしてもいいですよと言ってくれたんです」

お店を出すにあたっての希望は、平日はサラリーマンが週末は家族連れが来るような、昼も夜も人通りがあるような場所。当初は神田・秋葉原周辺や銀座・日本橋方面で探していた。しかし開業のことを相談していた方に、そのエリアはイメージが合わないよと言われ、考え直して少しずつ場所をシフトした。通勤や仕込みのことを考えると自宅からあまり遠くない方がいいという和子さんの希望もあって、江東区亀戸から江戸川区平井辺りのエリアに絞った。亀戸駅の北側の明治通りより東側は飲食店が多く物件も出るのだが、雰囲気が合わないのでこのエリアは避けようというのが二人共通の意見。南側は物件が出にくかったが、ABC店舗のサイトに登録して少しした頃に今の店舗の情報がアップされた。和子さんが自転車で下見に出かけ、印象がよかったのですぐに内覧会に申し込んだ。立地と広さはほぼ希望通り。写真では両側が壁で圧迫感があるのでは…?と思ったが、店に入った瞬間に二人で「あぁいいねぇ!ここにしよう」と意見が一致。後ろにはまだ順番を待って入店していない人がいたにも関わらず、その場で担当者に申し込んだ。

どこにでもあるような定食屋では意味がない
目が不自由だからこそのコミュニケーション

開業を志した当初、常雄さんはありふれた定食屋でいいと考えていた。だが和子さんに「どこにでもあるような定食屋だったら自分たちがやる意味がないから、特徴のある店を出そう」と言われ、和子さんが以前から勉強していた「麹料理」をメインに据えたメニュー構成にした。和子さんはずっと会社勤めで事務職をしており飲食業の経験はなかったのだが、健康や食品の安全性などへの意識が高く、塩麹やアサイー、チアシードなどがメディアで取り上げられてブームになる前から食卓に取り入れていたほどの情報通。そんな和子さんがお店の特色を出すために選んだのが麹料理だ。発酵食品である麹を使った料理は健康に良いし何より美味しい!食材は基本的に国産のものを使い、旬の魚や野菜で季節を感じられる料理を提供していくことに決めた。
開業までの4年の間に常雄さんの目の状態が段々悪くなり料理をすることが難しくなったため、料理は和子さんが担当している。メニューは二人で相談して決めているが、洋食出身の常雄さんのアイデアは和子さん曰く「ゴテゴテしたがる(笑)」。和子さんは「できるだけシンプルに」がモットー。しかし常雄さんにはそれが物足りないようで、「さばの塩麹焼きは、香味醤油だれ・柚子胡椒ポン酢だれというバリエーションを作ることで落ち着いたんです(笑)」。

人と話すことが大好きな常雄さんはホールを担当している。「僕は目が不自由でしょ。だからお客様が今何をしているか分からない。見えていない分『今いいですか?』ってズケズケ話しかけちゃうんですよ。タイミングが悪かったらすぐ謝っちゃう(笑)。お客様も声をかけてくださる。お陰様で色んな方と話ができるのが本当に楽しくて!」と人懐こい笑顔で語る常雄さん。「もちろん初めて来店されたお客様には、私は目が不自由ですと説明をしています。何回か来てくださっているお客様は、バタバタしているといいよいいよって待ってくださる。時には『運んでやる!』って手伝ってくださる方も。申し訳ない…って思うんですが、本当に有り難いです」
オープン当初8種類しかなかった日本酒が現在のように増えたのも、常雄さんのコミュニケーション力があったから。色んなお客様と話をする中で美味しい日本酒が話題になり、興味を持ってどんどん仕入れていたらある時ついに冷蔵庫に入りきらなくなってしまったとか。今は酒屋さんと相談したり、話題になりそうな地域の地酒を先取りして仕入れたりして、適度に入れ替えているそうだ。

儲かるよりも一人一人にきちんと接客がしたい
地元ならではの共通の話題に会話が弾む

新宿や銀座のランチでは1,000円でも決して高くはない。「にこにこ」のランチは“本日の御膳”にセルフサービスのコーヒー付で880円とお手頃なお値段のはずだが、近隣には500円ランチのお店がありこの辺りでは高い方なのだそうだ。そのせいか若いサラリーマンのお客様は予想よりも少なめだったが、少し落ち着いた年代のお客様が気に入って通ってくださっている。「商売という目で見ればランチタイムに2回転3回転するのがいいのでしょうが、僕たちはほどほどでいいんです。外で並んでいるお客様がいらっしゃると心苦しいし、あきらめて他に行ってくれるとホッとしちゃったり…(笑)」と常雄さんが言うと、「そうなんですよねぇ。お客さんがいっぱい来てくださるのは嬉しいんですが、オーダーが立て込むとお待たせするのが申し訳なくて焦ってしまうし、ただ流れ作業みたいになってしまうのが辛いんです」と和子さん。「たとえランチタイムでも、ただ料理を出してお会計してサヨウナラでは何もいいところがない。余裕を持って料理を出したり接客できるぐらいがちょうどいいんです」と微笑むお二人。お客様との触れ合いを大切にしている二人だからこその考えだ。

オープンから数ヵ月。亀戸にお店を出した感想を伺うと、「お客様が地元の方なので、行政のことやお祭りの話など共通の話題が多くて話が弾みますね。電車で通っていたら仕事場と生活は別々ですけど、全てが身近な話題なので亀戸でよかったなぁと思います」と和子さん。常雄さんは「満足いくサービスはできていないと思うけれど、通ってくれるお客さんがいる。色んな方とお話しができる。皆さんあったかいんですよ」

歩いて60歩のところにある人気スイーツ店「ましゅまろ亭」のご主人も「にこにこ」の常連さんだ。「うちに食事に来ると写真付きでツイートしてくださるんですよ」と常雄さん。和子さんはインターネットでの調べ物は得意でも発信は全く出来ないそうで、ましゅまろ亭さんは「にこにこ」でキャンペーンがあるときなども情報を発信してくれる力強い味方。「すごく応援してくださって助けられています」という和子さんもましゅまろ亭さんの大ファンだ。「にこにこ」ではお店のチラシをレジに置いたり、お客様がお土産を買ってきてくださった際のお礼にましゅまろを差し上げたりしているそうだ。

常雄さんの趣味が高じてお店に仕掛けが!?
お店を人と人との交流の場にしたい!

実は「にこにこ」の店内には意外な仕掛けがある。奥の6人テーブルと壁側のベンチシートが可動式になっているのだ。なぜそのような仕掛けが施されているのか…?
常雄さんは大の落語好き。このお店をオープンする際に、落語会ができるように内装業者に改装を依頼した。当初は高座の台を作ろうかという話もあったが、二人で倉庫から出し入れするのは大変なので、奥の大きなテーブルは高座の台にできるよう引っ張り出せるように作り替え、座るための補助材を作ってもらった。固定されていたベンチシートは高座に向かって並べられるように可動式にし、椅子も並べると30名ほどの落語会ができる。
「とにかく落語会をお店でやりたくて調べたら、江東区に『楽笑会』という社会人の覚悟の会があることが分かって、お話しを持っていきました。今年度の予定はもう決まっているからと最初は断られたんですが、会の後の宴会で使ってくださるようになって。来年度はここで落語会ができると思います」。開催にあたっては、場所代も木戸銭も一切いただかないと決めている。ドリンク付きや会の後の宴会などの利用条件もつけない。なぜなら「僕が好きでやることですし、この場所を使っていただきたいと思っているから。儲けるためじゃないんです」。
落語に限らず、朗読会、ガラス工芸や人形など手作りのものの展示会などでも使ってほしい。人と人との交流の場になって楽しく過ごしてもらえれば嬉しいと笑顔で語るお二人。

「にこにこ」の店名通り、お客様には笑顔で帰ってほしいと心を尽くしたおもてなしで、いつもにこにこお客様をお迎えする常雄さんと和子さん。「にこにこ」を中心に、もっともっと地元の輪が広がるに違いない。
(取材日:2016年12月2日)

藤原 常雄さん&和子さん
チェーン店でさまざまな業態の料理を経験してきた常雄さんと、健康食品や食の安全性について意識が高かった和子さん。常雄さんの目が次第に悪くなり社員として勤めることが難しくなってきたことを機に、二人で飲食店開業を目指した。物件が決まるまでに4年かかり、その間に常雄さんの目がかなり悪化してしまったため、料理を和子さんが、サービスを常雄さんが担当することとなった。
身体に良くて美味しい麹料理をメインに日本酒にもこだわった店として、2016年七夕の日に「にこにこ」をオープンさせた。

麹料理とお酒 にこにこ
住所:江東区亀戸6-24-8 ニューハウス亀戸101
TEL:03-5875-2733
営業時間:月・火・木~日 11:00〜14:00/17:00〜22:00 (L.O.21:30)
定休日:水曜日
店舗情報:食べログ