インタビュー
居抜き開業を成功させたオーナーに、成功の秘訣や開店までの裏話などを伺います。

世界を渡り歩いたオーナーが提供する
日本人に合った本物の和食薬膳ダイニング

 東急東横線・東急大井町線の2線が乗り入れる自由が丘駅は、12の商店街を有する、言わずとしれたグルメ・ショッピングタウンである。地域を挙げて街づくりに取り組み、スイーツフェスタ、女神まつりなどのイベントで多数の来訪者を集める。休日には買い物・散策を楽しむ若者や家族連れの姿で賑わい、飲食店出店エリアとして大人気の街だ。

 その自由が丘の駅北口から徒歩5分、カフェやレストランが並ぶ緑が丘二丁目商店街の中ほどに、2016年4月、「薬膳ダイニング 縁ゆ」がオープンした。階段を上り、ドアを開けると、「人の縁を結ぶ(=ゆう)」という店名の由来のとおり、穏やかな照明で心がほっとゆるむような空間が広がる。

 マネージャーの山邊智敬さんは、漢方養生指導士、薬膳アドバイザーの資格を持つ和食薬膳のプロ。「お客様が喜ぶ、美味しく健康に良い薬膳を」と、29歳の若さで独立開業した。山邊さんのこだわりは、日本人の体質にきめ細かに合わせた独自の薬膳。一般に薬膳というと「火鍋」(強い辛味の鍋)が有名だが、胃腸のデリケートな日本人には合わない場合も。そのため、同店では薬膳スープだけでも、「エネルギーチャージ」「ココロと身体のリラックス」など、体調に合わせて選べる6種類を用意している。「寝覚めがスッキリしない」「顔がむくむ」などのお悩みがある場合は、最適なメニュー・食材の紹介もしてくれる。 こうした食と健康への思い入れは、山邊さん自身の経験から生まれたものだ。

 高知県に生まれ、地元の大学の国際学科に進学した山邊さんは、学生時代、世界中を旅して回った。その過程で、逆に日本文化の素晴らしさに目が向き、勉強ように。無農薬野菜を栽培する高知の農家さんたちと知り合い、住み込みで畑で働いたこともある。「こんなにすごいこだわりを持ってやっている人たちの手助けをしたい、と。そこで僕がどうやってアプローチするか考えたときに思い当たったのが飲食業でした」

好状態の居抜き物件を最大限に活用
コンセプトに合ったナチュラル感抜群の店内

 飲食業を志した山邊さんは、大学卒業後、東京に出て、大手飲料系の飲食店経営会社に入った。複数の店舗で運営・接客に関わったが、ある時、激務もあり体調を崩してしまう。同時に、果たして自分の提供している料理でお客様が健康になるのか……という疑問も芽生えた。それが契機となり、以前訪れたことのある品川の薬膳レストラン「10ZEN」に転職、厨房に入った。勤務と並行して、隣にあった薬日本堂漢方スクールに入学し、漢方理論に基づく医学、薬学、養生法について造詣を深めた。

 自店開業に乗り出したのは、2015年春。「1,000万貯まったら開業しようと思っていたのですが、資金提供の申し出があって」。想定より早い時期となったが、この上ない話を受けて、物件探しをスタートした。当初から出店エリアは東横線沿線で検討。が、なかなか良い物件が見つからないまま、1年が過ぎようとしたころ、ギャラリーカフェの居抜きである自由が丘の現店舗と出会った。「少々駅から離れているのと、2階という難点はありましたが、とにかく状態がとても良かったのが決め手になりました」。新規開店にあたっては、白壁とフローリングを基調とするナチュラルな雰囲気を最大限に活用した。大がかりな工事の必要はまったくなく、椅子・テーブルも引き継いで使用している。前店舗ではブルーシートがかけられ使われていなかったテラス席も整備。外の風を感じながら開放的に食事が楽しめる、と人気だ。ワイングラスなどの一部食器も譲り受け、結果的に、内装・開店準備でかかった費用は150万円と、これまでインタビューしてきた開業者の中でも最小規模に抑えることができた。

目指すは「美味しさ」を妥協しないオリジナルの薬膳
たゆまぬ改善でこれからもお客様の笑顔が集まる店に

 オープンして3ヶ月、少しずつお客様が増えてきて、いい流れができてきたという。30~50代の女性層が多く、来客の8割ほどを占める。昼は季節の食材を使った花籠和膳(1,300円)、夜は前菜、スープ、メイン、体調で選べる薬膳鍋・粥、デザートまで味わえる充実のコース料理(2,500円)が人気だ。

 縁ゆの特徴は、リピーター率の高さ。「週4で店に通って色々なメニューを試してくれたり、胃腸が弱いお子様に合わせた特別スープを作ったら、その子がそれをとっても気に入ってくれたり――これからもお客様が笑顔と感謝が集まる店にしていきたいですね」。山邊さんの腕を見込んで、早くも第2店への出資の話も出ている。

 今後の課題は、食・器・空間などトータルな店の演出に力を入れ、さらにお客様の満足度を上げていくこと。来年からは、知人が埼玉に開く無農薬農園からのフレッシュな野菜の仕入れも期待できるという。オーガニック、薬膳というと「美味しくない」というイメージもまだまだ強い。安心安全と味覚の両立を追求し、ここでしか食べられない薬膳の提供を目指す。自身を含め3人のスタッフでいそがしい店を切り盛りしながら、ライチ、ハトムギ、ユリ、陳皮(ミカン皮)、茴香(フェンネル)などの漢方素材を漬けた薬膳酒や、カウンターの裏で芳しく発酵中の手作り味噌を仕込む。「いそがしい毎日に時々薬膳のエッセンスを取り入れていただければ」と、オリジナルの味への努力を怠らない。

 開業にあたっては「事前準備が大切」と説く。例えば、物件探しなら、地域、立地、通行量などをしっかりチェックすること。店のコンセプトをしっかり持っておくことも重要という。コンセプト無き店は、色々な面で方向性を定めるのが難しくなってしまう。「あとは、お客様の反応を見ての修正ですね。うちも、ボリュームが少ない、値段が高い、といった声を受けて改善を重ねてきました」。飲食店は開店して初めて分かることも多い。山邊さんも、厨房の5口コンロをフル稼働させると、こんなに熱がこもるとは思わなかったという。より快適な業務環境のため、設備面での改良も進めていく。「今は飲食店にとっては人の来づらい楽でない時代。でも、理想があればぜひ頑張ってほしいですね」と、自身もたゆまぬ研鑽の末に夢を叶えた経験から語ってくれた。
(取材日:2016年6月28日)

山邊 智敬さん
高知県出身。大学卒業後、大手飲食店経営会社で店舗運営・接客に携わったのち、薬膳レストランに転職。専門スクールに通いながら漢方諸学を修め、2016年4月、自由が丘に「薬膳ダイニング 縁ゆ」をオープン。漢方養生指導士、薬膳アドバイザーの確かな知識に基づく「体質に合わせた美味しい薬膳」にファンの輪が広がっている。漢方や薬膳に関するセミナーも開講している。

薬膳ダイニング 縁ゆ
住所:目黒区緑が丘2-16-19 グリーン自由が丘2F
TEL:03-6421-2773
営業時間:ランチ 11:30~15:00(L.O.14:30)/ディナー 17:30~22:30(L.O.22:00)
定休日:月曜日
店舗情報:HP食べログぐるなび