インタビュー
居抜き開業を成功させたオーナーに、成功の秘訣や開店までの裏話などを伺います。

お客様が大喜びしてくれる店に
日本料理出身の店主のこだわりが随所に

 「らーめん天神下 大喜」は地下鉄湯島駅1番出口から徒歩1分、御徒町駅から歩いても6分ほど。店名の由来は「湯島天神にあやかって、来てくれたお客さんが大喜びしてくれる店にしたい」。その名の通り、元日から行列ができ、お客様を大喜びさせている名店だ。澄んだ上品なスープのとりそばを始め、キリッとした醤油らーめん、麺の美味しさを際立たせたつけ麺など、数あるメニューはどれも品が良くて味わい深い。メニューに化学調味料は一切使用しておらず、麺は3Fの製麺所で打った自家製だ。平日の夜には日本料理出身である店主の小技が光るおつまみメニューや遊び心が取り入れられた限定麺があり、それらを目当てに来るお客様も多い。

 開店当初からベースは鶏スープだ。上品で飽きないところに魅力を感じたという。営業時間と同じだけ仕込みに時間をかけ、手間はかかってもやれば美味しくなると分かっていることは全部する。トッピングの具一つひとつに手間をかける。そんなところがお客様を惹きつけている。

製麺所に鼻で笑われた悔しさがバネに
行列ができる店になっても苦悩の日々

 店主の武川さんは、「料理に興味があったのと手に職をつけたかった」と学校を卒業して鰻料理がメインの日本料理店に入った。早くに結婚して子どもが生まれたため、寝る間も惜しんで2つ3つ飲食業のアルバイトをかけ持ちした時代がかなり続いたという。それでも職人の世界でしっかり修行を積み、いずれは独立をと考えていた。そして本格的に独立を考え始めた頃バブルが弾け、有名料理屋が軒並み潰れた。店を持つなら鰻や日本料理では厳しい、単価の安い丼物やラーメンのお店にしようと考え、あちこち食べ歩くようになった。元々ラーメン好きだったこともあり、あるときとても流行っていたラーメン屋さんに食べに横浜へ行った。「こういうラーメンもあるんだ!」と感銘を受け、店主のプロフィールを見ると、趣味が講じて脱サラして始めたというようなことが書いてあった。「ラーメン屋って簡単なんだ!曲がりなりにも料理は素人じゃないんだし、この方向がいいのかな」とこの頃は思ったという。

 開業にあたり何軒か製麺所を回ったが、どこからもロット数が少ないため鼻で笑われ単価が高くなると言われた。それに奮起した武川さんは、だったら自分で作ってやる!と製粉会社や製麺機械の工場長に基本的なことを教わり、自家製麺で店を出すことにした。そして物件取得に資金繰りにと走り回り、「今考えると恐ろしいことだけど、試作はほとんどできなかった。正直ラーメンに対して舐めていた部分があった」と当時を振り返る。麺打ちを教わってなかなかの出来に仕上がり安心したのが3月から4月頃。オープンは6月。教わった通りに作っても湿気のせいで別物に仕上がってしまい、作っては捨て作っては捨ての日々だった。スープも長時間炊いているとどんどん劣化してしまい、味がブレてしまう。時間差で何度もスープを炊いてみたり、一度に炊いて冷やして保存したり、試行錯誤が続いた。ラーメン屋は難しい…と実感したそうだ。
3年以上かかってようやく味が落ち着いた頃、TV番組の取材が来た。放送を見るまで知らなかったが、それはランキング番組で「大喜のとりそば」が1位に輝いた。番組終了後は閉まっている店の前に人だかりが出来、翌日からは大行列!店のある一角を行列が1周してしまい並びの店やホテルから苦情、並ぶ方向を変えて行列にスタッフを付けてもマンションから苦情。困り果てて整理券を配ることにしたら、今度は整理券を獲得するために200 人が並んだ。毎日誰かに頭を下げ、道で土下座したこともあるという。そのうえ回転をよくするために時間がかかるメニューを外したり、麺を細麺にして茹で時間を短縮したりしなくてはならず、お客様に対しても心苦しかったという。「それだけ並んでもらってスープ切れですなんてことにならないように人数を制限して、結果的に売り上げは落ちたしね。良し悪しですよ。仕事も荒れちゃうしねぇ…」。気持ちに余裕を持って営業できるようになったのは10 年目くらいからなのだそうだ。

自分のDNA を受け継いでくれるのが嬉しい
もっと美味しくなるはず!もっと上の味を目指す

 店をやっていて嬉しいことは、やはりお客さんに「美味しかったよ!」と言われること。そして店で修行した若者が自分のDNA を受け継いで商売してくれることだそうだ。「うちは娘だけで後継者がいないから大喜は一代で終わるんです。職人気質で、手広くやる経営者には向かないんだよね。暖簾分けはみんなやりたからないんですよ(笑)。やっぱりやるなら自分の屋号で店持ちたいでしょう。でもね、自分のDNA を受け継いでくれてるのは有り難いよ。そこが地元で有名な店になってるって聞くと嬉しいしね。俺が死んでもそういう店が残ってて、元をたどれば湯島に大喜ってラーメン屋さんがあってさ…なんていうのもいいなぁと思って」と武川さんは微笑んだ。

 今のお店は、なかなか店舗が見つからなかったときに、たまたまお肉屋さんの老夫婦が引退するからと快く貸してくれた物件。3Fの製麺所も借り手が見つからないというので格安で借りることができた。しかしその頃すでにビルが古かったため、工事が始まってからダメなところが次々見つかり大幅に予算をオーバー…。そうして開業し17 年続けてきた店舗も、都の道路拡張工事に伴い立ち退きを迫られている。今の店は使い勝手がいい訳ではなく、移ったらこうしようと構想を練っているそうだ。一時はかなりの種類の麺を打っていたが、現在は味を進化させて3種類に厳選。移転後は、メニューを減らして、出すメニューをもっと掘り下げていきたいと抱負を語る。「今が完成形ではなくて、まだまだ。もっと美味くなるはずなんだよね。同じ味を出していたら味が落ちたって言われたって話もある。お客さんの舌は進化しているから、同じだとダメなんだね。こっちも勉強しなくちゃいけないし進化していかないと」。もう年だから身体がついていかない、少し変えていかないと…と笑いながら本音を聞かせてくれたが、もっと美味しくという探究心はまだまだ尽きることはなさそうだ。
(取材日:2016年5月)

武川 数勇さん
日本橋の日本料理店で修行しながら、深夜や早朝に飲食業でアルバイトを掛け持つ。元々ラーメン好きであったことと、単価の高い飲食店が次々に潰れていった時代だったため、ラーメン屋での独立を決意。1999 年6月開業。試行錯誤の末にたどり着いた味で3年目には行列必須の人気店となる。17 周年を迎える現在も新しい麺やメニューに取り組み、進化を続ける名店である。

らーめん天神下 大喜
住所:文京区湯島3-47-2 白木ビル1F
TEL:03-3834-0348
営業時間:(月〜金)11:00〜15:00/17:30〜22:00
(土)11:00〜15:30/17:30〜21:00 (日・祝)11:00〜16:30 ※L.O.はいずれも30分前
定休日:大晦日
店舗情報:HP食べログ