インタビュー
ここでは年齢・肩書き一切不問!誰もが楽しく飲めて笑顔になれる奇跡の立ち飲みバル
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都内一の歴史ある繁華街「御徒町」 ホスピタリティに溢れた4坪の小さな路地裏バル
人の溢れる東京にあっても御徒町ほど賑やかな街はあるまい。歳末の買い出しで有名なアメヤ横丁、何十もの宝飾店が軒を連ねるジュエリータウン、上野公園や不忍池、湯島などの観光地もすぐそこだ。近年ではものづくりをテーマとしたアトリエショップ施設「2k540 AKI-OKA ARTISAN」もオープンし、新名所として人気を集めている。江戸や戦前からの歴史を持つこの古き商業と歓楽の街には、新旧内外様々なヒト・モノ・コトを包み込む懐の深さがある。
その御徒町に生まれるべくして生まれたのが、2015年11月2日オープンの「おかちまちバル」である。JR御徒町駅北口を出て、信号を渡って右に進み徒歩4分、首都高1号線をくぐって最初の路地に開く4坪に満たない小さな立ち飲みバルだ。夕闇にぼんやり灯りを放つ店内では、ビール、ワイン、焼酎などのアルコール類が500円から、その時々の素材を使った手作りフード類が300円からのリーズナブル価格で楽しめる。だが、この店の真の魅力はオーナーママの前嶋ナオコさんの温かな人柄とホスピタリティ抜きにしては語れないだろう。
現物件との運命的な出会い 父親と友人の導きで思いがけず始まった飲食店開業
前嶋さんはIT系企業代表を務めていた前職時代、ストレスの反動か、それとも元来持っていた素質なのか“女性化”が次第に進んでいったが、「何かトラブルがあった際に自分の存在がマイナスになっては」と熟慮の末に代表の地位から退いた。色々な経験をしてきて10年後くらいには飲食店をしたいという考えは漠然とあったが、開業に踏み切るきっかけとなったのは友人への想いである。「上野公園で路上生活をしている友達がいて、冬はいつもトイレで寝てた。それで、いちおう店という形にして、そこで寝泊まりしたら?と考えたのが始まりでした」。
しかしその段階ではまだ具体的計画は無かった。そんな時、「上野、御徒町」で何気なくネット検索した2頁目に出てきたのが現物件だった。「見た瞬間、なんか良さそうな感じがして、翌日に内見して、すぐに契約したの。勘ですね、勘。飲食やるって決める前だったけど、見つけちゃって、こりゃこの場所とロケーションでやるしかないなって。それに、私の父親がここに物を卸す業者で、ちっちゃい頃、宛先に『御徒町』って書かれていたのを覚えてて。実はちょうど父が亡くなった後でもあったので、何か運命的なものを感じて、この場所は何か父に守られるんじゃないかって。ちょっと宗教的ですけど、お葬式の時、父が私が新しいことにチャレンジするのを願ってるってお坊さんに言われたりもして、そういうことに後押しされた感じですよね」。
かくして、物件ありきで始まった飲食開業だったが、「立ち飲みバル」のコンセプトも物件取得後に思いついたという。「普通の人だったらデリバリー業態とかを考える面積ですけど、私は逆に狭い方が立ち飲みにはいいと思ってたので、それ以外は考えませんでした」。元大衆系立ち飲み居酒屋の居抜き物件を改装するにあたっては、業者は一切入れず、ファサードのペンキ塗りから、壁の鏡貼り、カウンターの設置まで、全て自分と家族の手でやってのけた。「ち」の字が小さく、一見「おかまバル」と読めるウィットに富んだロゴマークもデザイナーのお義父様の作によるもの。「店内のイメージはスペインのちっちゃいバルにクラブテイストを加えた感じ。何かちょっと騒ぎたいな飲みたいなっていうときに来てもらって、お話しするもよし踊るもよし。そんな感じがいいなと思ってつくりました」。
シャンパンシェア、ロシアンルーレット、男氣じゃんけん! 男女共にエンジョイできる大盛り上がりのバータイム
オープン前は店がうまくいくか心配もしたというが、蓋を開いてみると、結果は予想を遥かに上回る大盛況だった。「今思うと最初の1ヶ月ってすごい数のお客さんが来てますね。何でこんなに来たのか、どこで知ったのかと思うくらい。販促はリアルにチケットを配ったり、知り合いに声をかけたりはしたけど、想像以上にこの辺の方がバババッと。まぁ私もかなり強引に客引きしましたけど。これまで一番入った記録は22人。厨房まで人でギッチリで、私とスタッフは端っこの方で動けなくなって。バケツリレーでお客さんに全部取ってもらう感じ。そうすると道行く人も興味を示して外でもいいからって、通りにも2~3人。どれくらい入れていいか分からないんですよ、最初は慣れないから」。
こうした盛り上がりを生む秘訣は、前嶋さんの提供する顧客参加型のサービスシステムだ。1,000円ずつの割り勘でシャンパンを注文できるシェア飲み、ワニのおもちゃを回して噛まれた人がテキーラを飲み干すロシアンルーレット、そして極めつけは、手を挙げた人でジャンケン大会を行い“勝者”が皆にシャンパン「Moët(モエ)」(10,000円)を振る舞う大迫力の「男氣じゃんけん」である。DJミキサーや液晶ディスプレイも完備し、その日の客層に合わせて、スマートフォンに繋げて好みの音楽を流してもらったり、みんなで踊ったり、はたまた映画鑑賞会を開いたり、自由自在にエンターテイメントを提供できる。「オタ芸のお客様が来たときはAKBかけてそこでグワ~ッてやってたり。このキャパだからできる楽しみ方。だから私も店やっているって感覚じゃないんです。もう私の部屋に来てもらってるような感覚」。
近隣店舗からの出前もOKの自由な店で、店とお客様を繋ぐファシリテーター的役割を果たしてくれているのが、常連客の中から自然発生的に現れた「大将」と呼ばれる人々だ。繁忙時に厨房に入り店を手伝ったり、お客様側の意見を吸い上げたり、そういう頼れる存在の人が何人も名乗りを挙げてくれている。客層は男女半々で30~50代のひとり客が多い。特徴的なのは男女での客単価の大きな開き。女性はだいたい1,000~2,000円という安さだが、女性達にご馳走して気分の良くなった男性陣は5,000~6,000円、さらに気分が良くなれば1万、2万落としていってくれる。最近導入したスマホで決済できる「楽天スマートペイ」も売上向上に貢献している。「現金がなくてもこれがあれば『じゃあいいか』ってなってシャンパンモエ(笑)。1万円の売り上げが立って手数料3%なら全然痛くないですから、ビジネスチャンスを失わない為にやらない手はない」。
どこの店も混雑する休前日だけでなく、休み明けの月曜夜もクローズまで賑わうというから驚きだが、これは御徒町という街の特性によるところも大きい。狭いエリアに上野御徒町駅(大江戸線)、仲御徒町駅(日比谷線)、上野広小路駅(銀座線)など複数の駅が隣接するため、乗り継ぎをする会社員達が夜遅くまで多数往来するのだ。前嶋さんいわく、酒場は地元客というのが意外に少ない。というのも地元民は最寄駅に着いたら普通に帰宅したいものだからである。中には寄り道していく呑んべえもいるが、それはごく一握り、そこでは商売できない。出店地を選ぶにあたっては、こうした地の利も考慮に入れたそうだ。
肩書不要、この店では誰もが平等 自由な雰囲気ささえる冷静な経営感覚
大好評のうち先日1周年を迎えたおかちまちバルだが、2年目はチアシードやプラセンタなどを用いた女性向け美容ドリンクの開発にも取り組んでいきたいという。またもう一つ、前嶋さんが切に望むのが、顧客の中でも最も多い30~40代独身女子たちの良い出会いである。これまでもお客様に求められるままに月1~2回ペースでゴルフ、バーベキューなどのイベントを開催してきたが、今後もお客様同士の交友のため、フットサル、温泉旅行などを企画中という。「ガッと紹介するよりたまたま一緒になって仲良くなった方が絶対いいと思ってるんで。だから私お客さんから言われたイベントは断らないようにしてるんです」。思わず“御徒町の母”と呼びたくなるような慈しみを女の子たちに注いでいる。
自由奔放で何でもありに見えるこの店だが、ひとつだけ破ってはならないルールがある。「うちは若い子は20代から、上は60、70代まで色々な人がやって来る。20代、30代と楽しんでいる60代ってちょっといいと思わない?なかなかそういう機会ってないでしょ?だから、ここはみんな平等だと思ってるから、会社では社長とか部長かもしれないけど、あんまり昼間の役職をふりかざすような人はものすごく怒るから。『その言い方何よ』って叱りますから、どんな人でも。あんたが偉いわけじゃないわよって。そういうのが鼻につく人もいるようですけど、でも遠慮なく言います」。上下関係に理不尽な思いをすることも多いこの世の中で、誰もが気兼ねせずイコールの関係で話せるおかちまちバルのような空間は奇跡的とさえ言えるだろう。
人間味溢れるこの店に多くの人々が魅了されるのも推して知るべしという感だが、その成功の裏に冷静な経営計画があるのを忘れてはならない。「経営をやっていない人が飲食店をやる場合、ランニングコストを考えていない人が結構多い。最低予想の売上で何ヶ月耐えられるか、それを計算せずに始める人があまりにも多いから、みんな6ヶ月とか1年とかで潰れちゃうんですよね。私は、結果的にはこれまで赤字知らずでやってこれてますが、開業前は最低売上2万円/日という想定の元、それで半年は回せるだけの資金を準備していました」。というのも、前嶋さんはかつて飲食店プロデュースに携わっていたため、その怖さを知り尽くしているからだという。「飲食は人生最後の時くらいの覚悟がないと出来ない。企業相手にやってる方がよっぽどターゲットが決まっていて確実です。飲食なんて不確実の連続ですよ。一番難しい商売です」。これから飲食店開業に挑む人々はぜひとも心に留めておきたい一言である。
(取材日:2016年11月22日)
- 住所
- 東京都台東区東上野1-14-14 一光ビル 1F
- 電話
- 050-3570-0606
- 営業時間
- 18:00~24:00
- 定休日
- 日曜日、祝日
- 業種
- バー
この記事で紹介された人
オーナーママ 前嶋 ナオコさん
大阪府出身。飲食店プロデュース、ITシステム・メディア開発業等を経て、2015年11月、御徒町に立ち飲みバル「おかちまちバル」をオープン。リーズナブルで気の利いた手作りタパスとドリンク、音楽や映像による自由自在なエンターテイメント、ママとスタッフの愉快であたたかな接客に、老若男女・肩書きの別なく多種多様な層のファンが集う。店休日にはゴルフコンペ等のイベントも随時開催中。
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