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飲食店が提供できる生肉の部位と衛生管理の注意点

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これから飲食店の出店を検討されている方の中にも、インパクトがあり独自性のあるメニューとして生肉メニューを検討されている方もいらっしゃるのではないかと思います。
今回は、生肉を飲食店で提供する際のリスクや注意点について解説します。
肉寿司を筆頭に生肉ブーム到来
最近、生肉ブームが到来しています。
牛肉や馬肉、豚肉、鶏肉などバリエーションの豊かなお肉がシャリの上に乗っている肉寿司を筆頭に、牛刺し丼や牛の茶漬けなどの生肉メニューが登場しています。口の中でとろける霜降りの生肉や、旨味が凝縮された赤身の肉は、肉好きの方はもちろんですが、そうでない方にもブームが波及しているメニューです。お店によっては希少部位などの変わり種メニューも充実しています。
レバ刺しが禁止になった背景と生肉を食べる危険性
かつて、焼き肉店などの飲食店を中心に人気メニューとして親しまれていたレバ刺しは、食中毒事件をきっかけに2012年に禁止されました。レバ刺しが禁止された背景と生のお肉を食べる危険性について解説します。
食中毒や寄生虫感染の原因になる
生のお肉には、新鮮であっても食中毒の原因となる細菌が付着したり、存在したりしています。生の豚肉や牛肉には次のような細菌が存在します。
・E型肝炎ウイルス
・サルモネラ属菌
・カンピロバクター
・腸管出血性大腸菌
・ジェジュニ/コリ
これらの細菌を口にすると、O-157を始めとした食中毒により、激しい下痢や発熱、嘔吐などの症状が発現し、場合によっては死に至るケースもあります。豚レバーの生食による健康被害の発生は、実際に厚生労働省から報告されています。
家庭で生肉を食べないことはもちろんですが(飲食店以外では生食用の肉は流通していないため)、肉の保管方法や調理時に生肉を触った手は必ず手洗いするなどの注意が必要です。
子どもや高齢者は特に注意
生肉による食中毒を特に気を付けなければならないのは、子どもと高齢者です。
子どもが特に気を付けなければならない理由としては、カンピロバクターによる食中毒を発生しやすいことと、腸管出血性大腸菌(O-157など)による食中毒の際に合併症で溶血性尿毒症症候群(HUS)の発症率が高いことが挙げられます。溶血性尿毒症症候群を発症すると、腎機能障害や意識障害を起こしてしまい、最悪のケースでは死に至ることがあります。
元々免疫力の高くない高齢者も子どもと同様、合併症で溶血性尿毒症症候群を引き起こしてしまい、重症化しやすい(死に至る可能性もある)ため要注意です。
もちろん、子ども・高齢者だけではなく全ての方に生肉食による食中毒リスクは存在します。
飲食店での提供が禁止されている生肉・部位
ここでは、具体的に飲食店での提供が厚生労働省より禁止されている生肉の部位について解説します。どんなにおいしいものであっても、また新鮮で安全であることを主張しても、禁止された部位を提供することはできません。
牛の生レバー
2011年、富山県の焼き肉店で死者5人を出す食中毒事件が発生したことをきっかけとする大規模な細菌検査の結果、牛の生レバーにも死を引き起こす可能性のある腸管出血性大腸菌(O-157)が検出されました。
O-157は75℃で1分間以上加熱すると死滅しますが、レバーの内部にも入り込んでいるため加熱が不十分な場合や、冷凍肉を中途半端に解凍した場合などで感染してしまう可能性があります。安全に食べられる確実な方法が確立されていないことから、生レバーの提供が禁止されています。
さらには、健常な大人であれば重症化しにくいものの、子どもや高齢者にとっては危険なカンピロバクターという細菌も生レバーの中に存在しています。
豚の生肉・内蔵
豚のお肉や内臓は、厚生労働省が「生で食べずに中心部まで加熱して食べましょう」と呼び掛けています。サルモネラ属菌やカンピロバクター・ジェジュニ/コリなどの食中毒を引き起こす細菌が含まれているリスクがある他、海外では寄生虫が含まれていた事例も報告されているためです。
2019年現在の食品衛生法の規格では、豚肉中心部を63℃で30分以上(低温加熱)あるいは75℃で1分間以上加熱しなければならないと定められています。
飲食店での生肉の衛生管理と提供方法
生肉の提供の規制は厳格化されましたが、現在でも適切な衛生管理と提供方法を守れば提供できる生肉メニューがあります。生肉を使ったメニューを提供するための、飲食店での衛生管理と提供方法について解説します。
条件付きで提供できる生肉
ユッケや牛刺し、牛タタキなど生食用食肉として販売されている牛の食肉(内臓を除く)は、以下の条件で提供可能です。
[提供条件]
・腸内細菌科菌群試験の結果が陰性であること
・生食用食肉の設備を備えた衛生的な場所で、専用の器具を用いて加工をすること
・加工に使用する肉塊は、枝肉から切り出した後速やかに加熱殺菌をすること
・規定の温度管理を守ること(冷蔵は4℃以下、冷凍は-15℃以下)
・腸管出血性大腸菌などの細菌感染リスクを知るものが調理をおこなうこと
・調理をおこなった生肉は速やかに提供をすること
・メニューなどに生肉の食中毒リスクに関する記載を表記すること
・さらに、子どもや高齢者に対しては生肉食を控えるべきと表記すること
注意点を知って生肉を提供する
安全に生肉を提供するためには、調理や保管、お客への案内などに注意すべきポイントがあります。逆にいえば、注意すべきポイントを押さえれば、安全に生肉を取り扱っているお店であることを内外にアピールできます。
他の食材と保管場所を分ける
生肉と他の食材を同じ場所で保管すると、菌が他の食材に付着してしまう可能性があります。保管場所を分けることはもちろんですが、包丁やまな板などの調理器具や台所器具、ボウルやトレーなどの容器も必ず別々のものを使用するように徹底しましょう。
その他、注意すべきポイントは以下の通りです。
・買い物中もレジ袋の中などで生肉と他の食材が触れないように注意する
・生肉を漬け込んだ液は他の食材に使用しない
・生肉を使用した食器は、その都度きれいに洗浄する
生食用であることと危険性を表示する
生食用のメニューについては、メニューの分かりやすい位置に「生食用」と記載することが義務付けられています。さらに、生肉食による食中毒の危険性についての記載、「子ども」、「高齢者」、「その他食中毒に対する抵抗力の弱い者」に対する注意喚起についても記載が義務付けられています。
また、加熱しなければならない食材を生の状態で提供する際には、「加熱用」であることと生食リスクの危険性についての情報提供をおこない、それでもお客様が生で食べている際には重ねて注意喚起をする必要があります。
タレと混ぜて提供しない
例えば、ユッケを提供する際に、あらかじめ店舗側でタレをかけて提供することは禁止されています。タレに生肉を絡めることが、禁止されている「調理」にあたるとみなされるためです。したがって、タレを絡めて食べる生食メニューを提供する際には、肉とタレをそれぞれ別々に提供し、お客様自身にタレをかけてもらう必要があります。
飲食店で生肉の調理が禁止されているのは、調理時に菌が付着するのを防止するためと考えられます。
生食用食肉の証明資料を管理する
牛肉のトレーサビリティー法遵守も重要なポイントです。
トレーサビリティー法とは、識別番号を付けて生産から小売、流通まで伝達し、管理することで、飲食店が食肉を仕入れた際には、畜場や加工施設の名称、お肉の個体識別番号や枝番、ロット番号などの情報が全て記載されています。
何かトラブルが発生した際には、これらの情報を辿って被害を最小限に抑えることができるので、情報をしっかりと保管・管理しておくことが大切です。
まとめ
生肉は食中毒などのリスクが存在するため、規制や安全に取り扱うためのルールがいろいろと規定されています。違反をしてしまうと営業停止などの行政処分を受ける可能性があるため、生肉メニューを提供する際には必ず把握しておく必要があります。生肉を安全に取り扱うことで、他ではあまり食べられない生肉メニューがあることに加えて、衛生面に細心の注意を払っているお店であることもアピールしていきましょう。
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