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金融機関の審査担当者は飲食店開業者をどう見るか #専門家コラム

金融機関の審査担当者は飲食店開業者をどう見るか #専門家コラム

1. 審査が難しい飲食店開業の融資申込

私が、日本政策金融公庫に勤務している間に、もっとも長く携わったのが融資の審査の仕事です。融資の審査とは、既存の中小企業やこれから開業する方々からの融資申込に関して、融資をOKとするのかNGにするのか、判断する仕事です。

融資の審査の仕事の中でも、長年継続している中小企業の場合は、決算書など業績を示す財務データがあるので、比較的論理的に分析ができます。しかし、これから開業(起業、創業ともいいますが、ほぼ同義語です)する方の審査は、過去の実績がない状態で将来を予測することになるので、とても難しいものです。

私は、審査の仕事をしているときに、さまざまな業種の新規開業案件を見てきました。たとえば、小売業、卸売業、美容業、建設業、IT系事業などなどです。その中でも、もっとも多かったのが飲食業の開業案件でした。当時私が思っていたのが、「飲食業の開業はわかりやすいけれど、審査がとても難しい」ということです。

なぜなら、「この人なら成功して繁盛するお店にできるだろう」と判断して融資したのに、1年以内にうまくいかずに廃業するといった、予想外の「失敗事例」も少なくないからです。金融機関の審査担当者にとって、飲食業は判断に悩む業種の代表格といえます。

 

2. 審査担当者が最初にチェックするポイントとは【例:ラーメン店】

それでは、金融機関の審査担当者は、飲食店開業の融資申込があったら、最初にどこをチェックしているのか、こっそり教えますね。
それは「行きたくなるお店かどうか」です。意外かもしれませんが、飲食店は審査担当者自身もお客さんになったつもりで検討するからです。
ここでは、ラーメン店を例にとって解説します。

たとえば、Aさんから「ラーメン店を開業するので、700万円を融資してください」という申込があったとします。審査担当者は、まず提出された申込の書類を読みます。「借入申込書」、「創業計画書」(事業計画書)などです。この場合、まず「うまそうなラーメンを出す店かどうか」をチェックします。

ここで「エッ!書類だけでうまいかどうか分かるの?」という疑問がわきますね。

もちろん、Aさんが作ったラーメンを食べるわけではないので、書類を見た範囲での想像に過ぎません。ところが、うまいかどうか、けっこう分かってしまうものなのです。審査担当者もいろいろな人がいますが、高い確率で“ラーメン好き”だと思います。なぜなら、転勤族で全国を回るので、転勤先の土地でおいしいラーメン店をお教えてもらって食べに行くケースが多いからです。

さて、食べてもいないのに「ラーメンがうまいかどうか」を、どうやって判断するのでしょうか?

 

実は「創業計画書」(事業計画書)に書いてあることを読めば、なんとなく味が想像できるのです。審査担当者が、特別な訓練を受けているわけではありません。どなたでも、事業計画書に書いてあることを読めば、うまいかどうか予想できます。

たとえば、開業する人の経歴の中でどんな経験を積んでいるのか、どんなラーメンを提供するのか、「強みや特徴」があるか、といった点が見えてくるからです。うまいかどうかが想像つくといっても、「まずいだろう」と判断することはあまりないですが、なんの特徴もなさそうなラーメンだと、「ぜひ食べたい」とは思わないのが普通です。

実は、融資申し込みする人の事業計画書の中には、何の特徴も感じられない内容のものが少なくありません。その場合は、「お客さんをつかむのが難しいのではないだろうか」と、審査に関してネガティブな判断になってしまいます。もちろん、飲食店が繁盛するかどうかは、提供する料理の味だけで決まるわけではありません。雰囲気や接客サービスに関しても、事業計画書に書いておくと利用するときのイメージがわきます。

たとえば、「落ち着いた雰囲気のお店で、あっさりとした魚介系スープの上品なラーメンが食べられる」など、具体的な場面が想像できることが重要です。イメージがわけば、「女性でも入りやすそう」「飲み会の後の締めラーメンで行きたい」「ランチで利用したい」など、利用シーンも目に浮かびます。

もしあなたが、日本政策金融公庫の創業融資を受けたいとお考えなら、事業計画書を読んだだけで「お、このお店はおいしそうで雰囲気もよさそうだ。ぜひ行きたい」など、魅力的なお店だと感じられる書き方をすることが大切なのです。

 

3. 審査の面談も大事

上記のように、金融機関の審査をパスするためには、審査担当者が行きたくなるような店であることが必要です。そのためには、事業計画書を魅力的に書くことだけではなく、審査の面談のときの受け答えも大切です。

審査の面談とは、融資申込した後に設けられる、審査担当者と会って話をする場です。時間は1時間から1時間半程度で、基本的には担当者からの質問に回答する形で進められます。面談は、自分の事業計画の魅力を審査担当者へプレゼンすべき場でもあります。

たとえば「どんなラーメンを出されるのですか?」といった質問があります。それに対して、「まあ、普通のラーメンです」と答えたらどうでしょう。

ラーメン店の店主には頑固な人も少なくないので、「普通のラーメンが一番うまいんだ」と自己主張するのかもしれませんが、残念ながら審査担当者は「魅力的だ」とは思ってくれません。

たとえば、「駿河湾の魚貝類を使った、魚介系スープのラーメンを出します。スープは透き通ったもので塩分控えめの薄味に仕上げますが、出汁が効いているので十分な味が出ます。以前修行していたラーメン店で、師匠に教えてもらった味を基に、私なりに工夫を加えて作ります。この街には豚骨系のラーメン店が多いのですが、会社勤めの若い女性が多い地域なので、あっさりとしたラーメンも好まれると考えています。叔父が静岡で鮮魚の仲卸をやっていて、新鮮な魚を安く仕入れることができます」

と、具体的な説明ができれば、きっと審査担当者も聞きながら唾を飲み込んでいることでしょう。

ラーメン店を例にとりましたが、どんな業態でも同様です。ぜひあなたのお店について、魅力的に説明できるように準備してください。融資の審査において、開業予定のお店が魅力的に見せるためには、融資申し込みする前に、ご自身の計画をお客様目線でブラッシュアップすることが大切なのです。

 

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記事を書いた人

上野 光夫 氏

株式会社 MMコンサルティング 代表取締役・中小企業診断士

1962 年鹿児島市生まれ。九州大学を卒業後、日本政策金融公庫(旧国民生活金融公庫)に 26 年間勤務し、主に中小企業への融資審査の業務に携わる。3万社以上の中小企業への融資を担当した。融資総額は約 2,000 億円。

2011 年4月にコンサルタントとして独立。起業支援、資金調達サポートを行うほか、研修、講演、執筆など幅広く活動している。資金調達サポートでは、年間約 100 社の融資を成功に導いている。リクルート社『アントレ』などメディア登場実績多数。

主な著書

『起業は1冊のノートから始めなさい』(ダイヤモンド社)
『「儲かる社長」と「ダメ社長」の習慣』(明日香出版社)
『事業計画書は1枚にまとめなさい』(ダイヤモンド社)

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