旧店舗の状態によってメリットは大きい

「居抜き開業を成功させるために知っておくべき、居抜きならではの難しさとは?」という記事では、前店舗の設備をしっかりと評価し、自分のお店にどのように活かすかアイデアを持つことが重要であると紹介した。しかし、前店舗が同じような業種であったり、状態が良い物件であれば、必要最小限の手をかけるだけで大方の設備をそのまま使えるケースももちろん存在する。手軽にお店をオープンしたいと考える人にとっては、それこそが居抜き開業のメリットといえるだろう。

居抜きを活かした事例

目黒区自由が丘で「薬膳ダイニング 縁ゆ」をオープンさせた山邊さんは、「とにかく状態がとても良かった」と現物件に惚れ込み、契約を決めた。前店舗がギャラリーカフェだったこともあり、白壁とフローリングを基調とするナチュラルな雰囲気を最大限に活用することができた。前店舗で使われていなかったテラス席など、一部に手を入れることはあったが、ほとんどはそのまま活かせる状態で残っており、椅子やテーブルも引き継いで使用している。内装・開店準備でかかった費用は150万円と、様々なオーナーの方に話を聞く中でも最小規模の費用に抑えることができた。

学芸大学駅から東、徒歩5分ほどの場所に「和彩 遊佐」を開いた遊佐さんも、前店舗の資産を上手に活用したオーナーの一人だ。遊佐さんのお店も和食店、前店舗も和食店と同業種だったおかげで、厨房・ホール含め、8割方の設備は継続使用できたという。前店舗の使用期間が1年半ほどという新しさゆえ、造作譲渡費がかさんだが、設備の素晴らしい完成度を考えると納得のいく物件だった。大幅な工事を行うことなく、椅子やテーブル、玄関前のガラス壁、そして遊佐さんのセンスが光る有田焼のコレクションを加え、格調高い雰囲気を演出することに成功した。

京王井の頭線「池ノ上」駅のすぐ近く、居酒屋「晴レノ日」の原田さんは、物件を探して1件目で今の店舗と出会うことができた強運の持ち主だ。原田さんも前掲の二人と同じく、前店舗の造作を活かしたお店づくりを進めたが、状態の良いテーブル・カウンターの天板にはあえて手を加えた。「状態がきれいだったのでそのままでもよかったのですが、前の店を知っている人に『ああ、前と同じね』と思われないように変えました。目に入る面積が多く、人の印象を左右しやすい部分だと思ったので」と語る原田さんのバランス感覚が、低コストながら一味違うお店づくりを達成した理由だろう。知人からワインセラーを譲ってもらうなど、周囲の協力も欠かせなかった。

造作譲渡費とのバランスを考えよう

3人の例を見ると、前店舗の業種や保存状態(使用期間)が、引き継ぐ設備に手を入れず使えるかどうかの鍵になっていることが分かる。しかし、保存状態が良ければそのぶん造作譲渡費が高くなる傾向にあり、一概に保存状態が良ければ物件のパフォーマンスが高いとはいえない。どれだけ自分が開業準備に時間をかけられるか、どれだけ内装・外装の工事に予算をかけられるかなどを天秤にかけながら、自分のイメージに合う物件探しを行うことが必要になるだろう。