インタビュー
居抜き開業を成功させたオーナーに、成功の秘訣や開店までの裏話などを伺います。

天然物の旬魚に心あたたまる家庭料理
八丁堀サラリーマン達の和みのごはん処

大手から中小企業まで多数のオフィスが集う日比谷線・京葉線八丁堀駅。駅から亀島川を渡って東方面に広がる新川エリアには、東京住友ツインビル東西両館がランドマークとして構え、すぐ横には悠々とした隅田川の流れが走る。視線を上げれば、中央大橋の向ことがこう側に、佃島の高層マンション群が立ち並ぶ大都会の風景を目にすることができるが、時折ぽっと現れる、昔の名残をとどめる下町的な街角では、かつて運河町として栄えたこの地の歴史を感じることができる。

『ごはんや団らん』は、そんな八丁堀の古き良き伝統を受け継いだかのような、実に味ある和食居酒屋だ。駅から徒歩5分、住友ツインビルから八重洲通りはさんで向かいの路地裏に構えるこの店は、2015年9月7日に開業。白壁にグリーンのテント、木枠の格子ガラス扉と、一見、喫茶店風の店構えだが、内部はオフホワイトと木目を基調とした柔らかな和風の空間となっている。店内の棚に多数並んだボトルキープの焼酎瓶は、この店がいかに顧客に愛されているかを物語っている。

昼の時間帯には、海鮮丼、焼魚、豚角煮、牛すじ煮込み、肉豆腐と家庭料理の鉄板ラインナップを定食(900~1000円)として提供。御飯・味噌汁・小鉢・お新香付の充実ぶりで、近隣のサラリーマンから大好評を得ている。夜はぐっと大人の雰囲気を強め、季節の日本酒、旬の鮮魚刺身(780円~)、ぶりかま塩焼き(1280円)、おでん、厚揚げなど、嬉しい定番メニューを日によって30~40種ほど豊富に取り揃える。店主の間渕敬司さんは、「おすすめはやっぱりお魚料理。基本的にはすべて天然魚を使い、お酒と一緒に旬の味を楽しんでいただけるようにしています」と語る。

独立修行は効率的な自学でショートカット
人口統計とともに“ご縁”を重視した物件探し

間渕さんが飲食の道に入ったきっかけは、大学時代の就職活動。バブル崩壊後の就職氷河期のまっただ中で、希望していたメーカー企業に次々と落ち、目を転じた先が飲食業界だったという。「法律学科に入って何故、飲食なのかと周りにさんざ言われましたが(笑)。思い返せば、小学生時代の作文で“将来は寿司屋かエンジニアになりたい”と書いており、料理には昔から興味を持っていました」。当時、急成長していた和食ファミレスチェーン、株式会社華屋与兵衛に入社し、1年目にチーフ、4年目には店長に任じられ、厨房、接客、計数管理と店舗運営の全般を学んでいった。

独立開業を志望しはじめたのは、就職して5年と割と早い時期だった。「その頃からうっすらと“自分でやった方が楽しいんじゃないかな”とは思っていました。それで、資金を貯めつつ、様々な業態の店で料理の経験を積んでいくことに」。回転寿司FC、個人居酒屋、ふぐ料理専門店と回る中で、独立のために心がけてきたのは、調理技術の地道な勉強。「今から料亭で親方について丁稚奉公しなくても、今は本でもテレビでも知識を得る源は何でもある。まずは頭でっかちに知識を入れて、後は入った店でやり方を聞いて、自分で練習した方が早いと思ったんですね」。もともと手先が器用なこともあり、自助努力でショートカットの修行道を開拓した。

物件選びは焦らず約5年の時間をかけた。当初は自宅に近い千葉市内を検討したが、人口統計から今の自分の技術・経験では勝負が難しいと判断し、次第に都内に候補地をシフト。八丁堀の現物件を見つけたのは2015年春頃。初めて内覧した時に「あ、ここかな」というフィーリングを得て、初開業の地に決めたという。「物件探しでは調査とともに“縁”の有る無しも大切にしました。例えば、気になる物件の内覧会があっても、仕事で都合が合わない場合は“ご縁がないんだ”と思って諦める。逆に、邪魔が入らずスルスル決まっていく時は“めぐりあわせかな”と感じる。ここがまさにそんな物件で、それまでにいくつもの物件を見てきましたが、この店と同じものを感じたのは他に1軒しかありませんでした」。

予想外の出費、でも戦略どおりにランチは大当たり!!
次なる一手で夜の顧客掘り起しにも着手

契約した物件は、寿司屋の居抜き店舗。開業準備段階の大きなトラブルは特になかったが、考えてもいなかった出費に驚かされた。「蛇口の水漏れなどはありましたが、それは居抜き物件なので想定内。厨房機器もそんなには入れ替えませんでした。それよりもお金がかかったのは、鍋や食器、備品類。個々の代金はたいしたことないのですが、それが積み重なっていくと、10万、20万……え、100万!?みたいな(笑)。その時はすでに退職していたので、思わず頭を抱えてしまいました」。この物件は譲渡品に湯呑・茶碗一式も含まれていて安心しきっていたので、なおさら意外感が大きかったという。

こうした予想外の出来事もありながら『団らん』がオープンして早1年半。近隣のサラリーマンや住民を中心に堅い支持を獲得し、ランチは16席の客席に毎日50人以上が訪れるほどの人気を博している。「ここは駅から少し離れた立地ですが、住友のツインビルほか大型ビルが複数あり、中小企業も多数存在する。それならランチは必ず取れる、後は夜増やしていけばいい、という営業戦略におおむね沿った展開になっています」と間渕さんは語る。店舗選びの際、もうひとつ新小岩の物件とも迷ったが、知人や先輩の意見からも、八丁堀の方がランチの安定的な売上が確保できそうだ、と判断したことが功を奏したかたちだ。

次なる課題は、夜営業の売上アップ。販促強化のため、グルメサイトの利用などを鋭意検討中だという。「実はうちの店は開店以来、広告宣伝費はまったくゼロ。開店前のチラシも配っていないくらい。食べログも店のお客さんが作ってくれました。自分でやっているのは、強いて言えば外の立て看板くらい。夜もこの辺りの地元の方々と前店舗の常連さんを引き継げたので良かったのですが、そろそろ何かやらないと、と考えています」。店の全体的な売上アップを達成した先には、同業態での増店も構想している。

長期的な運営目指すなら運転資金確保は必須
万一に備えて生活再建計画も用意を

間渕さんの余裕ある経営ぶりの背景には、集客に対する堅実な見通しに加え、資金計画に関する確かな考え方がある。「開業時、売上が0でも半年から1年もつくらいの運転資金として、約300万を確保しました。融資がなくてもやれるだけの貯蓄もありましたが、生活費の保証分として公庫のローンを利用しました。父と兄が銀行員なので話を聞いたり、自分でセミナーに出席して勉強したりして、資金が尽きてから借りようと思っても遅い、ということは重々承知していたので、お金がショートしない体制だけはつくっておくよう留意しました」。

新たに飲食店開業を目指す人々に向けてはこう語る。「とりあえずお金を貯めよう、それと、物件は出会いだよ、という2点ですかね。物件は諦めずに待つことが大事。30歳になったから、といって無理くり妥協して開けるのではなく、縁を大切に、余裕をもって探した方がいい。店舗は生活の基盤そのものですから。後は、「保険をかける」=失敗した時の再生プランを用意しておくこと。経営不振の事業にしがみついて借金を膨らませるよりは、諦めるタイミングをあらかじめ決めておいて、ローンを返済し、数年後に再起する計画をつくった方が絶対いい」と、自身の経験から、個人飲食店で大切にすべき経営感覚について語ってくれた。
(取材日:2017年2月10日)

間渕 敬司さん
1973年、埼玉県生まれ。法政大学法学部卒業後、株式会社華屋与兵衛に入社。4年目より店長職を任され、店舗運営に携わる。独立開業を視野に、回転ずし、和食居酒屋、ふぐ料理専門店で調理経験を積み、2015年、八丁堀に『ごはんや 団らん』をオープン。丁寧な味づくりの旬魚・定番家庭料理とともに、スタッフのあたたかなおもてなしで、近隣の住民やサラリーマンの寛ぎの場となっている。

ごはんや 団らん
住所:中央区新川2-28-4
TEL:03-5244-9552
営業時間:ランチ 11:30~16:00/ディナー 17:00~22:00
定休日:不定休
店舗情報:食べログ