インタビュー

神田で受け継がれる想い。若き店主がこだわる「鮨屋のあり方」とは

目次
若くして神田の鮨店の大将に
移転先も当然「神田」で。元は中華屋さんだった店舗をフルリノベーション
こだわりぬいた内装はすべてお客様本位
どんな魚も美味しく調理、創意工夫が鮨屋の醍醐味
店舗情報【鮨はし本】

若くして神田の鮨店の大将に

「顔写真はね~、ちょっと苦手なんですよ」自分の名を冠した店、鮨「はし本」を現在の内神田にオープンさせてからもうすぐ1年。若き店主、橋本真也さんは照れ笑いで続ける。「お店の看板の写真でも使ってください」

若くて照れ屋、と紹介してしまうと語弊がある。鮨職人としてのキャリアは既に20年を超えた脂ののった若大将である。生まれは大分の別府育ち。子供の頃にはまった海釣りがこの仕事についたキッカケでもある、と屈託なく話す。「釣った魚をね、どうにか料理しようと思うんですが最初は塩焼きしかできない訳ですよ。で、三枚下ろしに挑戦しだして。そしたらそっちがすごく楽しくなっちゃって」

若き橋本さんは東京目黒の鮨店で修行をスタートさせる。それから数年、職人としての心と技を学び徐々に独自のスタイルも確立しだした。当時の勤務先であった神田の鮨店でお世話になったオーナーにそろそろ独立を、と切り出したところ、逆にこの店を引き継いでくれないか、と見込まれてしまう。「いきなりの独り立ちだと仕入れから色々大変でしょ、常連のお客さまもいらしたんで。で、そのままお店を引き継ぐことにしました」

若くして神田の鮨店の大将となった橋本さんだったが、もちろん経営方針は変えなかったという。「鮨は昔から庶民の食べ物。価格も味もできるだけ工夫して、お客さまには気軽に楽しく味わってほしいんです」

移転先も当然「神田」で。元は中華屋さんだった店舗をフルリノベーション

その後、店の営業は順調だったが、神田駅周辺の再開発に伴い長く親しんだ店舗を立ち退くことに。ついにゼロから自分の店を立ち上げることになった橋本さんだったが、移転先は銀座でも六本木でもなく長く親しんだ「神田」と決めていた。

内見すること10数件、慎重に物件を検討する中で譲れないのは1階で通りに面した路面店であること。通りすがりに思わず暖簾をくぐり、ぱっと入ってしまいたくなる。そんな構えが理想なのだ。そうして吟味した結果、現店舗に行き当たる。元は永らく営業した中華店だ。

「内見したときは、年季の入った中華店そのものでした。まずはすっかりスケルトン状態にして、解体業者の方が苦労していましたが、そこからの作業だったんで工事期間が2ヶ月。できあがったころに大家さんがやってきて『こんなに綺麗にしてくれてありがとう』って」 実際、以前の中華店を知っている方からは、ビルごと立て替えたのかと勘違いされるほどだとか。

こだわりぬいた内装はすべてお客様本位

そうして完成した新店舗にはようやく自身の名、「はし本」を掲げた。その書き文字はささやかで、決して出しゃばらずお客様本位を貫く店主をそのまま体現しているかのよう。

シンプルな薄茶色の暖簾をくぐると、高い天井が印象的だ。長くしつらえた美しいカウンターは特別製の一枚板で、新店舗への心意気が感じられる。明暗のコントラストがついた落ち着いた空間は、席の間も充分に取られ決して緊張を強いることはない。正方形を多用した直線で構成された店内にも関わらず、印象は柔らかく居心地のよさを感じられる。

「設計事務所の方とは、お客さまにリラックスしていただける空間づくりを入念に検討しました」 見る人が見れば、それは一目瞭然。カウンターの高さと自身が鮨を握るまな板の位置から始まり、採光窓の位置、暖簾の長さ、照明、とすべては橋本さんのさりげない心遣いの集合体なのだ。

「前のお店は神田駅を越えたちょうど反対側だったんですが、引っ越してから以前の常連のお客さまに加えてこちら側のお客さまにも贔屓にしていただけるようになりました。実は引越し前より忙しくさせていただいています」 照れ笑いで話す橋本さんはどこか誇らしげでもあった。

どんな魚も美味しく調理、創意工夫が鮨屋の醍醐味

新店舗の開店からほぼ1年、新旧のお客さまに支えられ日々賑わいを増す「鮨 はし本」。ベテランの鮨職人である店主、橋本さんにあえて日々の仕事の魅力について尋ねてみた。

「実はとあるご縁で、ネタの一部は九州の漁港から直接仕入れいるんです。その日に揚がるいろんな魚が航空便で空輸されて夕方前には届くのですが、天然物なので季節どころか、日によっても魚種によっても脂のノリがさまざま。そんな魚たちを日々見極めてどう捌くか、そこが腕の見せどころです」 あるものは新鮮なその日のうちに、あるものは寝かせて旨味を引き出す。お客さまの好みも織り込んで臨機応変に提供する。板場を前にオーケストラの指揮者のような橋本さんの姿を想像してしまう。

ビジネス街の神田なのに土曜も休まず営業ですか?の問いに橋本さんは顔をほころばす。「うちは平日夜は接待で使っていただくことも多いんですが、土曜日はそんな常連さんがご家族を連れていらっしゃるんです」 普段は隙のないビジネスマンが、パパの顔となって家族サービスにやってくる。「お子さん連れとか、うちは全然大丈夫なんで」 神田の鮨屋も、土曜はちょっと家庭的になる。

店舗情報【鮨はし本】

この記事で紹介された人

橋本 真也さん

大分県生まれ。幼少期を別府市で過ごすが、その頃覚えた海釣りと魚の調理の楽しさがきっかけとなり、鮨職人を志す。地域開発により店舗移転を機に、自身を体現する新店舗「鮨 はし本」を2017年8月にオープンさせる。

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