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ローストビーフブームの裏にある低温調理のリスク。飲食店経営者・開業者が行うべき食中毒対策

ローストビーフブームの裏にある低温調理のリスク。飲食店経営者・開業者が行うべき食中毒対策

ローストビーフやラーメンのチャーシューなど、肉を低温で調理して提供する飲食店が増えつつあります。旨味が増す、栄養素が逃げない、肉が硬くならないなど、今までとは違う美味しい料理を提供したい飲食店にとって有効な調理法でしょう。
しかし、低温調理は十分な加熱を行わないため、食中毒のリスクがあることを理解しておかなければなりません。
今回は、低温調理のメリット・デメリット、低温調理における食中毒対策について解説します。

低温調理とは。仕組みを解説


低温調理とは、肉を湯せんなどで低温に保ち、長い時間をかけて熱を伝える調理方法です。

肉にはミオシン、アクチン、コラーゲンという3つのタンパク質が含まれており、それぞれに変性する(火が通る)温度が異なります。
ミオシンは50℃以上で変性する性質があり、変性すると肉に弾力が出て、食べたときに旨味を感じるようになります。
アクチンは66℃以上で変性し、肉の色が変わり、硬くパサパサとした食感になるのが特徴です。
コラーゲンは68℃以上でゼラチン化しますが、60℃の低温調理でゆっくりと変性していきます。コラーゲンは主に硬いスジの部分に含まれており、長時間煮込むとトロトロの食感になります。

低温調理はアクチンの変性を避けるために、肉の温度を50~66℃の範囲で調理し、ミオシンだけを変性させて柔らかく、かつ美味しく仕上げることができます。
ただし、コラーゲンの変性を目的に調理する場合、24時間といった長い時間が必要です。

低温調理の仕組みを踏まえたうえで、低温調理のメリットとデメリットを見ていきましょう。

低温調理のメリット


低温調理をした場合の、メリットとデメリットを順にご紹介します。

旨味が増す

低温で調理することで、食材の風味や旨味を逃さず、美味しく調理することができます。
肉や魚のタンパク質の変性を抑えられるので、水分が抜けず、柔らかくジューシーな仕上がりになるのが大きなメリットです。
ローストビーフはもちろん、水分をキープして柔らかくすることが重要な鶏むね肉の調理にも適しています。

栄養素が逃げない

旨味や食材の水分だけでなく、調理の熱で栄養素が壊れないことがメリットの1つです。
また、食材が直接水に触れないため、水に溶けだす性質を持つ栄養素も余すことなく摂取できるので、栄養価の高い食事を必要とする病院食でも取り入れられています。

手間があまりかからない

低温調理は、食材を湯せんにかけて長時間置いておく調理法です。
そのため、ガス台の前につきっきりということがなく、とても簡単に手間なく料理ができるというメリットがあります。
ただし、低温調理は温度管理が重要なので、専用の低温調理機を導入するか、こまめな温度チェックが必要です。

低温調理のリスク


低温調理には、時間がかかる、食中毒が起こりやすいというリスクがあります。
低温調理を導入したい場合、メリットだけでなく、リスクについても知っておきましょう。

時間がかかる

十分な加熱をするためには、低温なのでそれなりの時間を要します。
数時間の加熱が必要なので、早めに仕込まなければなりません。
レアでも食べられる牛肉なら1~3時間程度でも問題ありませんが、寄生虫リスクのある豚肉や鶏肉はより多くの時間が必要です。

食中毒や腐敗が起こりやすい

低温調理は食中毒の原因となる菌が繁殖する危険性があるので、衛生面の管理に注意が必要です。
50℃前後は菌が繁殖しやすいため、調理中に菌が繁殖するリスクがあります。

厚生労働省では食材の安全性を保つために、中心温度75℃で1分以上の加熱、また食肉製造では中心温度63℃で30分加熱することを基準としています。
60℃以上で死滅する菌もありますが、低温調理ではすべての菌を死滅できないため、食中毒のリスクがあることを心得えておきましょう。

飲食店が低温調理を導入する際の食中毒対策


飲食店で低温調理を導入する場合、食中毒を起こさないことが重要です。
低温調理の温度帯では菌を殺菌する力が弱いうえに、長時間の調理で菌が繁殖しやすくなります。
肉に付着している食中毒菌(サルモネラ菌やカンピロバクター、O157など)が死滅せず、食中毒を起こす可能性があるのです。

また、食中毒は「つけない・増やさない・やっつける」という3原則があるので、まな板や包丁などの調理器具、手洗いを徹底するなど、基本的な衛生対策を行うことも大切です。

そこで、飲食店で取り入れるべき、低温調理における食中毒対策をご紹介します。

前日の調理は避ける

食中毒の事例では、前日に調理した食材が原因になることが多くあります。
菌が大量に繁殖する機会を与えないためには、前日調理はなるべく避け、提供する当日に調理することが大切です。

食材の温度管理を徹底する


食中毒を防ぐためには、保存する温度管理が重要です。
低温調理した食材は、5~10℃以下の冷蔵庫に保管し、食中毒菌が繁殖する20~50℃の温度のまま放置しないようにしましょう。
そして、調理前の食材も低温保存を行い、菌の繁殖を防ぐことが大切です。
食材は20℃を超えると細菌が繁殖しやすくなるため、温度と湿度が高い夏場の厨房は特に注意しましょう。

また、冷凍庫はマイナス18℃以下を保つことが重要なので、温度チェックを定期的に行うことも大切です。

加熱調理を十分に行う


低温調理、高温調理にかかわらず、食材の中心まで火を通すことが大切です。
低温調理で厚みのある肉を調理する場合、中心温度計を使って計測しましょう。
冷凍した食材を調理する際も同様に、中心温度の確認が必要です。

また、中心温度を測る際は、最も熱が通りにくい、食材の中央の内側を計測するのが基本です。低温調理で調理した食材は、63℃以上に達しているかを確認しましょう。

飲食店に取り入れたいおすすめ低温調理メニュー

低温調理のリスクを踏まえ、食材の扱い方を徹底すれば、安全に調理することができます。
そこで、飲食店に取り入れて欲しい、おすすめの低温調理メニューをご紹介します。

ローストビーフ


低温調理の代表格といえばローストビーフでしょう。
現在では低温調理器や簡単にできるレシピが普及したため、ローストビーフを手作りすることが身近になりつつあります。
低温調理でローストビーフを作る際は、以下のポイントを踏まえると美味しく仕上がります。

・もも肉の塊を用意し、塩、コショウなどで下味をつける
・下味をつけた肉をフリーザーバッグに入れ、空気を抜いてファスナーを閉じる
・お湯が60℃前後になったら肉をお湯に浸す
・2~3時間ほど放置したら、肉を取り出して表面をフライパンで焼いて焦げ目をつける
・袋の中の肉汁を使い、醤油などを足してグレイビーソースを作る

材料も少なく手軽に作れるので、飲食店のメイン商品として取り入れるのがおすすめです。

チャーシュー


チャーシューを低温調理で作ると、ほんのりとしたピンク色で、とても柔らかくジューシーな仕上がりになります。
低温調理チャーシューの作り方は以下の手順で行いましょう。

・水、醤油、砂糖、みりん、酒を鍋に入れて火にかける
・鍋にショウガ、にんにく、鷹の爪、ねぎを入れてひと煮立ちさせて漬け込み液を作る
・漬け込み液の荒熱を取り、フリーザーバッグに豚肩ロース肉と漬け込み液を入れて空気を抜く
・お湯が63℃になったら、肉を入れて8時間ほど加熱する
・時間が経ったら肉だけを取り出し、230~250℃のオーブンで8分ほど焼く(またはフライパンで焼き目をつける)

豚肉を使っているので時間がかかりますが、赤味の柔らかさはいつものチャーシューと段違いの美味しさです。ラーメン屋さんや居酒屋のメニューとして、取り入れてみてはいかがでしょうか?

魚料理


低温調理は肉料理だけでなく、魚料理にも応用できます。
魚を低温調理する場合は、油に浸して煮ながら加熱する「コンフィ」がおすすめです。
コンフィは、肉を保存するためにフランス南西部で発祥した調理法で、肉や魚を柔らかく仕上げることができます。

生食用のサーモンを使った、しっとりとした食感が魅力のサーモンコンフィの作り方をご紹介します。

・水に砂糖(5%)、塩(10%)を溶かしてブライニング液を作る
・ブライニング液にサーモンを漬け込み、冷蔵庫で45分寝かせる
・サーモンの水気をペーパーでふき取り、表面にディルを散らす
・フリーザーバッグにサーモンとオリーブオイルを入れて空気を抜く
・お湯が40℃になったら、1時間ほど加熱する

生食用のサーモンを必ず使うことと、40℃というより低い温度で調理するのがポイントです。
ブライニング液に漬け込むことで臭みが消えるうえに、味が均一につくというメリットがあります。
火が通った生という変わった食感が楽しめるので、提供したら話題になること間違いなしでしょう。

まとめ

低温調理は、食材の旨味や栄養素を逃さず、美味しく食べられるメリットがあります。しかし、時間がかかることに加え、食中毒のリスクがあるので注意が必要です。
食中毒のリスクを下げるには、前日料理をしない、中心温度の確認、食材の保管、手洗いなどの対策を必ず取りましょう。

リスクをきちんと理解しておけば、美味しい料理を飲食店で提供できます。
ローストビーフなどの肉料理に加え、魚料理でも応用できるので、低温調理を導入して提供する料理のレパートリーを増やしてみてはいかがでしょうか?

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