居抜き物件のメリットを活かすには

居抜き開業のメリットはいくつもあるが、なかでもコストが抑えられることは最も大きなポイントだといえる。スケルトンの物件にゼロから設備を揃えていくよりも、前店舗の設備を上手く引き継ぐことによって、開業コストはまったく異なる。机上の計算通りにいかない飲食店経営だからこそ、不要な出費を抑え、いつ訪れるかも分からないあらゆる困難に立ち向かえるだけの余裕を持っておくことが重要だ。

しかし単純に、居抜き開業=コストが抑えられる、といった話ではない。というのも、「居抜き物件だからこそ」生じる難しさもあり、それをしっかりと把握できなければ、改装の予算オーバーのみならず、オープンのスケジュールが遅れるなど様々な範囲に支障が出てしまう。居抜き開業でコストを抑えるには、あくまで「上手に」物件を引き継ぐことが条件になるが、実際に居抜き開業を体験したオーナーの話を聞けば、それが一筋縄ではいかないことがよく分かるだろう。

オープン2日前に故障が判明

約束の引き渡し日、渋谷区代々木の物件に訪れた頼富さんは目を丸くして驚いた。前店舗から引き継ぐ予定だった製氷機やガステーブルが、丸ごと持って行かれてしまっていたのだ。残されていた冷蔵庫も、オープン2日前に故障が判明。さらにはクーラーも、稼働と同時に壁から水が浸み出すなど、予想だにしない数多くのトラブルに見舞われた。前向きな頼富さんの努力もあり、オープン日を一週間ほど遅らせることで対応したが、あるべき設備がないのはもってのほか、残っている設備ですら使ってみなければ不具合があるかどうか分からないというのは、居抜き開業の難しさの典型だろう。

大幅な改装で業種転換

たとえ不具合がないとしても、引き継いだ設備がそのまま使えるかといえば、そうではない。特に前店舗と開業予定の店舗で業種が違う場合、その不安は顕著になる。
茂木さんは、かつて小料理屋であった物件を、ベトナム屋台料理屋として生まれ変わらせることにした。まず、店内の座敷を撤去し、側面の壁を壊してベトナム風の可動式の開き戸に替えた。内装もベトナムの写真を業者に渡してイメージを伝え、大幅な改装を決行した。
しかし、変えたばかりではない。店内で一際目を引く水色のカウンターは、前店舗の小料理屋から引き継いだものを塗り直して使っている。「リノベーション」という言葉が流行って久しいが、このように少し手を加えるだけで、新しい価値を生み出せるのだから、何を変え、何を残すべきかの判断が居抜き開業のポイントになる。

ぼろぼろの古民家が蘇る

最後に紹介する池田さんも、リノベーション的な手法で店舗をオープンさせた一人だ。高田馬場のとある古民家に一目惚れした池田さんは、実際に現地を訪れ「本当にぼろぼろでした」と苦笑しながらも、自らのインスピレーションを信じ改装を決意。内装業者に協力を依頼し、カウンターやエアコンなど必要最低限の設備を整え、傷んでいた畳を撤去して床張りに。ふすまも取り払って開放感を出した。壁やふすまの飾りは、「自分が居て居心地の良い空間」をテーマに、池田さんが自力で施工したというのだから驚きだ。「酒肴 新屋敷」は、池田さんのDIY精神が一件の古民家を蘇らせた素晴らしい例といえる。

重要なのは設備の評価・活用

「居抜き店舗なら設備が揃っているから簡単だ」というのは、半分が正しくて、半分は間違っている。もちろん、ゼロベースで設備を揃えるよりも大幅にコストを抑えられるが、その一方で、引き継いだ設備を正しく評価し、それらをどのように活用すべきかというアイデアが必要になる。そのアイデアを、専門家の助言や先人たちの事例から生み出すことができれば、居抜き開業の難しさを乗り越えることができるだろう。