知らない街との出逢い

「吉祥寺だけが住みたい街ですか?」という漫画をご存知だろうか。テレビ東京でドラマ化も実現し、いま少しずつ注目を集めている漫画だ。吉祥寺の重田不動産という、少々変わり者の双子姉妹が経営する不動産屋を舞台に、様々なお客さんの物件探しを淡々と描く構成になっている。物語に登場するお客さんは皆「慣れ親しんでいる」「住みやすい」といった理由で吉祥寺住まいを希望するのだが、双子姉妹は彼らの話を聞きながら、彼らが住むべきは吉祥寺ではないと、様々な街へ強引に案内する。お客さんも最初は戸惑いを見せるものの、双子姉妹と共に街を歩くにつれ、自分の求めていた街、そして物件に出会う――簡単にいえば、そんな物語だ。

居抜き物件を探すとき、多くの人は、サラリーマンに来てほしいから新橋だとか、若者をターゲットにしたいから中央線沿いだとか、「場所」を条件に挙げる事が多い。もちろん、飲食店において場所は重要なファクターであり、それを条件として物件を探すことは自然なことだが、先に挙げた漫画の物語のように、思いがけない街に運命の物件があることも少なくない。東京は不思議な街で、長く住めば大雑把な土地勘は身につきやすい一方、いくら住んでも気付かなかったような魅力ある街に出会うこともある。

街を広げるか、街にこだわるか

和彩 遊佐」のオーナーである遊佐さんは、不動産屋に6~7軒あたり、学芸大学駅近くの物件に出会うまでにおよそ2年の歳月を費やした。彼は最初から学芸大学エリアに狙いを定めていたわけではなく、むしろ当初は仕事で馴染みのあった恵比寿エリアを考えていた。しかし、人気エリアである恵比寿の物件は、総じて家賃が高く断念。それからABC店舗のスタッフと共に様々な物件を訪れるうち、東急東横線のクリーンなイメージがあり、駅乗降者数の多い学芸大学エリアに出会った。遊佐さんは街と物件を気に入り、内覧からわずか3ヶ月というスピードで店をオープンさせた。

遊佐さんは当初の条件を変更し、思いがけない街と出会うことに成功した好例だが、「鮨 二代目太郎」の中根さんは、当初の条件を曲げなかったからこそ、理想の物件を見つけ出すことに成功した人だ。中根さんの希望は「自宅から近い場所」だったが、半年ほど経っても自宅付近で理想の物件に巡り会えず、たまに良い物件が現れたかと思えば予算オーバーだったりと、次第に物件探しは難航していった。だが、中根さんは「自宅から近い場所」という条件を譲らず、粘り強く物件を探し続けた。その甲斐あって、新小岩で念願の物件に出会うことができた。見学した物件は20件以上、いわゆる粘り勝ちだ。

「譲れない条件」を見直そう

臨機応変に様々な街の物件を見る人もいれば、絶対に譲れない街を条件にする人もいる。探し方は様々だが、本当に重視している条件は何なのか、そこに気付くことが第一のスタートであることは間違いない。自分の中で少しでも迷いがあるなら、「吉祥寺だけが住みたい街ですか?」のように、不動産業者とのやり取りの中でそれを探すことが近道なのかもしれない。