これから飲食店を開業しようとする方にとって「減価償却」は非常に重要度の高い経理上の手法です。お店をオープンした初年度はどうしても所得が少なくなりがちで、ともすれば必要経費がかさんで赤字になってしまうことも少なくありません。そんな初年度の経費を極力少なく抑え、その後の数年間に分配して計上することで、実際に現金が動くことがなくても、帳簿上では利益が減少することになり、税金を抑えることが可能になるからです。
減価償却は、厨房機器や内装工事費など、高額な資産全般に適用されるため、これから飲食店を開業しようとしている方や、飲食店経営を検討している方には、是非、頭にいれておいていただきたい考え方です。今回は、飲食店の内装費用の減価償却に焦点を絞って、基本的な情報をご紹介したいと思います。減価償却の対象、仕訳の方法、耐用年数についてご説明しますのでぜひ参考にしてください。
そもそも減価償却って?
本題に入る前に、そもそも減価償却とは何かについて簡単にご説明しておきます。
市場に出回っているほとんどの商品の価値は、年を追うごとに下がっていくものです。例えば今年購入したパソコンが、数年後も同じ値段で取引されることはなく、必ず価格は安くなります。つまり、ほとんどの有形固定資産は、実は減価償却資産といえるのです。では減価償却とは何を意味するのでしょうか。減価償却とは、一時的に発生した支出を分割して費用として計上する方法のことを言います。なんとなく難しいように聞こえますが、本当はとても簡単なことです。もう少しわかりやすくするために、具体例を出して考えてみたいと思います。
例えばあなたが、60万円で製氷機を購入したとします。もちろんそれは経費として計上する必要がありますが、60万円全てを購入した年の経費として計上してしまうのは誤りです。なぜならその製氷機は、購入した年だけでなく、その後何年も使用するものだからです。もしも初年度にすべてを計上してしまうと、2年目以降は0円で製氷機を使用しているということになってしまい、不都合が生じます。そのため、大きな金額がかかる厨房機器や設備などには、使用年数を鑑みて、分割で経費計上をしていくという方法がとられます。このような考え方を減価償却といいます。
減価償却資産の耐用年数とは?
そこで重要になってくるのが “耐用年数”です。
ちなみにこの耐用年数は、必ずしも実際にその機器の使用可能年数とイコールというわけではありません。また、もちろんオーナーが自由に決められるわけでもありません。もしも減価償却の期間をオーナーが自由に決めていいことになると、節税が自由にできてしまうことになってしまうからです。そのため、それぞれの資産の経済的価値は、公平性に基づき国税庁が一律に定めています。まずは国税庁のホームページ(https://www.keisan.nta.go.jp/survey/publish/34255/faq/34311/faq_34353.php)で該当する資産の耐用年数を確認してみましょう。
ここでは上述の例にならって製氷機の耐用年数を確認してみます。国税庁ホームページ内の「器具・備品の耐用年数一覧」によると、「電気冷蔵庫、電気洗濯機その他これらに類する電気又はガス機器」は「耐用年数6年」となっていることがわかります。減価償却の計算方法にはいくつか種類がありますが、一般的には「定額法」が用いられます。定額法によると、60万の製氷機を購入した場合、60万÷6年=10万円となり、毎年10万円ずつ6年間に渡って経費として計上するということがみえてきます。
ちなみに、定額法の他に定率法、生産高比例法などの計算方法があります。特に税務署へ届け出ることがなければ、最も損益計算が安定している定額法が採用されることになりますので、その他の計算方法を希望される場合は、所轄税務署へ届け出ることも忘れないでください。
減価償却の特例制度:
少額減価償却資産の特例と一括償却資産の特例
減価償却の対象は、法人・個人の要件、また設備の種類によって決まります。そして減価償却には一部特例もあることを先にお伝えしておきます。それは、「少額減価償却資産の特例」と「一括償却資産の特例」です。それぞれに当てはまる条件については、下記に明記しますので参考にしてみてください。
少額減価償却資産の特例
条件 :青色申告であること
従業員数が1000人以下であること
個人事業主 もしくは 中小企業であること
内容:30万未満の資産であれば一括で減価償却することができる
一括償却資産の特例
条件 :白色申告、青色申告双方が利用可能
内容 :10万円以上、20万円未満の資産は、法定耐用年数に関わらず3年で減価償却することができる。
また10万未満の資産に関しては、消耗品費として計上することができるため、上記制度に関わらず一括で減価償却することができます。
内装費用で減価償却の対象となるものは?
減価償却は、時間の経過とともにその価値が下がっていく資産全般に当てはまります。もちろん建物の構造や付帯設備も立派な有形固定資産の1つです。したがって、飲食店において最も高額な費用を要する内装工事費も、この減価償却の対象となります。減価償却に関する基本的な仕組みを理解していただいたところで、さっそく今回の本題である「内装工事の減価償却」に話を進めたいと思います。
内装工事の減価償却については、国税庁のホームページ内「耐用年数(建物・建物附属設備)を参考にすれば、どのような工事が対象となり、耐用年数が何年なのかがわかるようになっています。具体的に飲食店の内装工事で対象となる項目とその耐用年数を下記に記しておきます。
建物の構造 | |
木造・合成樹脂のもの | 22年 |
木造モルタル造のもの | 19年 |
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造のもの | |
延面積のうちに占める木造内装部分の面積が30%を超えるもの | 34年 |
その他のもの | 41年 |
店舗が金属造のもの | |
4㎜を超えるもの | 31年 |
3㎜を超え、4㎜以下のもの | 25年 |
3㎜以下のもの | 19年 | 店舗の内外装 |
アーケード・日よけ設備 | |
主として金属製のもの | 15年 |
その他のもの | 8年 |
店舗簡易装備 | 3年 |
電源設備 | |
蓄電池電源設備 | 6年 |
その他のもの | 15年 |
店舗内装用の器具・備品 | |
給排水・衛生設備・ガス設備 | 15年 |
什器・ガス機器・電気機器など | |
テーブル・イス・キャビネット | |
主として金属のもの | 15年 |
その他のもの | 8年 |
応接セット | |
接客業用のもの | 15年 |
その他のもの | 8年 |
ベッド | 8年 |
陳列棚・陳列ケース | |
冷蔵・冷蔵機付のもの | 6年 |
その他のもの | 8年 |
その他の家具 | |
接客業用のもの | 5年 |
主として金属のもの | 15年 |
その他のもの | 8年 |
内装用の電気機器 | |
ラジオ・テレビ・テープレコーダー・その他 | 5年 |
冷房・暖房用機器 | 6年 |
電気冷蔵庫、電気洗濯機その他これらに類する電気・ガス機器 | 6年 |
氷冷蔵庫、冷蔵ストッカー(電気式のものを除く) | 4年 |
事務機器・通信機器 | |
電子計算機 | |
パソコン(サーバ用のものを除く) | 4年 |
その他のもの | 5年 |
コピー機・レジスター・タイムレコーダーなど | 5年 |
その他の事務機器 | 5年 |
ファクシミリ | 5年 |
インターホン・放送用設備 | 5年 |
電話設備とその他の通信機器 | |
デジタル構内交換設備、デジタルボタン電話設備 | 6年 |
その他のもの | 10年 |
看板・広告器具 | |
看板・ネオンサイン・気球 | 3年 |
マネキン人形・模型 | 2年 |
その他のもの | |
金属製のもの | 10年 |
その他のもの | 5年 |
また、もしも内装工事費や設備購入費が合算されている場合は、耐用年数の長い方に合わせる、もしくは平均値をとるという方法がとられます。いずれにしても、どちらにするかルールを統一し、間違いないのないよう気を付けましょう。
減価償却するための内装費用の仕訳ポイント
減価償却にあたっては、各費用の処理方法を決める「仕訳」の作業が必要です。具体的には「建物」「建物付属設備」のいずれかの勘定科目に仕訳していくことになります。内装工事の請求書・請求明細書の内容を確認し、各勘定の処理を確定しましょう。
「建物付属設備」として区分できるのは、その名のとおり付帯設備に関するものです。具体的には、電気設備、給排水設備、衛生設備、ガス設備、冷房、暖房、通風設備、ボイラー設備、昇降機設備、災害報知設備、避難設備などが建物付属設備に該当します。
「建物」は、店鋪を開業する建物自体に直接実施する工事です。木工工事・ガラス工事・防水工事などがこちらに該当します。実際に仕訳を行う際には、まず建物付属設備をピックアップし、残った項目を建物に分類する方法が簡単です。
国税庁ホームページでは、仕訳区分を一覧にした表が公開されています。実際に仕訳を行う際は、請求書とこちらの表を見比べてください。
建物は構造・用途によって耐用年数が決められています。また、工事一式の合計費用によって上述した「少額減価償却資産の特例」「一括償却」「減価償却」のどれを利用することになるのかが決まります。
賃貸物件の耐用年数と減価償却の期間について
「建物」に分類される内装工事は、工事を実施した建物の用途変更・価値増加として考えられます。そのため、減価償却は建物の耐用年数に応じて考えるのが自然です。
一方、多くの飲食店は建物のオーナーからテナントを借りて開業するため、建物のオーナーと内装工事のオーナーが同じではありません。資産の権利も違うことになります。また、多くの内装工事は建物の耐用年数よりももたないため、すべての内装工事に建物の耐用年数を適応するのは現実的ではありません。
国税庁は賃貸物件で実施した内装工事に関して、「合理的に見積もった対応年数を適応する」といった内容を明記しています。一般的には、10~15年の耐用年数が適応されるケースが多いようです。ただ、建物の賃借期間に定めがある場合については例外です。当然ながら、その賃借期間が耐用年数として適応されます。
まとめ
飲食店の運営において、経理に関する仕事は非常に重要です。開業時の費用の大部分を占める内装工事の減価償却方法は、経理上で粗利を得るためにとりわけ大切なポイントとなります。減価償却の方法についてはインターネットの情報を参考資料でよく勉強し、慎重にお店の資金計画を進めるのが賢明です。
一方で、それまで経理や税金に関する知識を培っていなかった方が正確に処理するのは困難なのも事実です。難しく感じる場合は、税理士など専門家の力を借りることをおすすめします。特に赤字計上になってしまった場合は、信用喪失により銀行の融資が受けられなくなってしまう可能性もあります。可能であれば、内装工事内容を決める段階で税理士と相談しておくとよいでしょう。