さびれかけた市場からの出発
日本初生米麺フォーがTVで一気に話題に
JR吉祥寺駅北口から徒歩3分。大手家電量販店裏、小洒落たレストランやバルが軒を連ねる繁華街にあるのが、ベトナム屋台料理「チョップスティックス吉祥寺店」だ。日本初の国産米粉生麺フォーと化学調味料無添加スープの優しい味を求めて多くの客がやって来る。オーナーの茂木貴彦さんは、中央線・下北沢エリアを中心に、ベトナム料理店や鶏そば店など計6店舗を運営しているベテラン経営者。吉祥寺店は2014年、5つ目の店としてオープンした。
茂木さんの飲食店キャリアは、大学卒業後にはじまった。「学生時代はまったく飲食業に興味はありませんでした。でも、商売をしたいという思いは昔からありました」。そこで、飲食店の厨房に入り、2年ほど経験を積んだ後、イギリスへ渡航、現地でも新店舗立ち上げに関わった。ベトナム料理を始めたきっかけは、イギリスで体験した或る出来事にあった。現地の日本食レストランでは、カリフォルニア産の日本品種米を仕入れるのが一般的だったが、それを口にして、茂木さんは、日本産の米がどれだけ美味しいか、そしてどれだけ高級な米かということに初めて気づいたという。しかし、当の日本には米の麺がない。それならば、世界で一番美味しい日本米でベトナム料理のフォーを作ったら、これまでなかったような美味しいフォーができるのではないか?そう閃いた茂木さんは、単身ベトナムへ渡航し、現地で食べ歩きを重ね、製麺工場を視察した。こうして未知のベトナム料理をほぼ独学で勉強した末に、2003年、高円寺・大一市場に開いたのが、チョップスティックス第1号店(今の高円寺本店)である。
当時の大一市場は、小さな乾物屋や惣菜屋がひっそりと集う、お世辞にも活気があるとは言えない場所だった。製麺所との二人三脚で、試行錯誤の末に日本初の国産米生麺フォー開発に成功するも、茂木さんも当初は1日の来客2~3名という苦境に耐えた。ところが、ある時、たまたま店を訪れたTVディレクターが店の料理を気に入り、番組や雑誌で取り上げられたことから、一気に認知度が上がって客足が伸びた。するとその活況につられるように、さびれた市場に、一店、また一店と新しい飲食店が増えていき、現在のような飲み客で賑わう人気スポットとなったという。「市場の大家さんにも感謝されました」とその時の状況を振り返って微笑む。