開業者インタビュー

皆に支えられながらこだわりの料理を追求する個人飲食店の理想的スタイル

大澤 直也さん
皆に支えられながらこだわりの料理を追求する個人飲食店の理想的スタイル

著名人も住まう憧れの高級住宅地「代々木公園」
スパイス・ワイン・ヨーロッパ各国の煮込み料理の店

1967年開園の代々木公園(渋谷区)は、面積約54万㎡に及ぶ大都会の広大な憩いスペースだ。園内にはスポーツ施設や噴水、ドッグランなどが整備され、春の桜を筆頭に四季折々の自然の風景が楽しめ、多くの人がレジャーや散策に訪れる。都心にありながら緑豊かな住環境のため、周辺には各国大使館、政財界の要人や文化人、芸能人の邸宅、高級マンション・戸建て住宅などが集まり、「いつかはこの街に住みたい」と憧れる人も多い。

一方、公園西門側の最寄り駅である千代田線・代々木公園駅の周辺では、地元密着の小さな商店街が今も現役で活躍し、トマトや胡瓜をかご売りする昔懐かしの青果店と現代的なレストランやカフェが並存するユニークな風景も見られる。今回ご紹介する「Spice&Wine Oeld(エルド)」もそんなお店のひとつ。2016年7月7日にオープンしたこの店は、駅1番出口から首都高高架下のトンネルをくぐって徒歩5分、上原水道通り商店街の半ほどに位置する、煉瓦壁にブラックのシックな外観が印象的なバー&レストランである。

この店の主役は、店名が示す通りスパイスとワイン、そして店長・大澤直也さんがヨーロッパ各国を巡るなかで出会った煮込み料理。カウンターにずらりと並んだ27種類のスパイス類を駆使して作るオリジナルメニューは、冬季だと、「北海道ベーコンと骨付きソーセージのシュークルート」(1000円)、とろとろ熱々の「アサリ・海老・里芋のパンデグラタン」(900円)、開店当時からスープを継ぎ足し旨味が凝縮した「煮込みハンバーグ」(1100円)などの人気が高い。醤油を隠し味にした特製の黄金・琥珀ソースをとろりとかけた「葛餅・求肥のきな粉アイス」(500円)などスイーツも充実。一人客用に夜の定食プレート(2000円)が用意されているのも嬉しい。ワインは赤白それぞれ常時5~7種類、クラフトビールは主に海外産を数量限定のレアもの含め16種類。日本酒や栗焼酎などの変わり種の和酒も揃える。

身体への優しさにも気を配り、料理には産地直送の肉・野菜を用いる。ソースは固形ブイヨンやコンソメは使わず、素材の旨味だけで無添加で作る。その美味しさは、ソースで作ったドレッシングをスプーンで飲みほしてしまう人もいる程だ。大澤さんは自店のコンセプトについてこう語る。「スパイスを前面に出すのは、もともとハーブティーとか食後のお茶が好きで、メディカルコーディネーターの資格も持っていたことが始まりです。店名のOeldはアングロサクソン語で『炎』という意味なんですが、煮込みの炎やスパイスやワインの薫りのように、漂い、そして有り続ける。そんなイメージでつくった店です」。

国内外を巡るなかで得た豊かな貴重な飲食経験
探索エリアを広げることで好物件を発見!

大澤さんが飲食の世界に入ったきっかけは高校時代にアルバイトで働いた地元のスイス料理店。「料理が好きでずっと調理師になりたかったけど、知らない人何百人相手にやっていたら嫌になる」と思い、個人店を修行先に選んだ。師匠と仰ぐオーナーからは味覚から店のあれこれ、レディーファーストの原則まで幅広い教えを受けた。「皆勤賞を取った高校3年間と同じくらいの時間を店で過した」という程の濃密な経験を通して、飲食業の素地を鍛えた。高校卒業後に服部栄養専門学校に入り、修了後は東京や大阪の様々なレストランやバーで、一貫して接客担当として経験を積んだ。帰京後は、広尾の有名イタリアンレストラン「インカント」や代官山のインテルナショナル・キュイジーヌレストラン等に勤務する傍ら、お金が貯まるごとにヨーロッパ各国を旅して現地の食を探求し、飲食人としての引き出しを更に増やしていった。

ずっと心にあった独立開業に乗り出したのは、2015年11月。「開店する」と決意してから、1~2週間でやりたいことやロゴなど全部決めたが、唯一物件だけが見つからなかった。当初の希望エリアは恵比寿か奥渋谷。だが6~7坪で月27万など、高額賃料に手が出なかったため、少し足をのばして代々木公園周辺に検索範囲を広げたところ、16年4月に現在利用している物件に行き当たった。元ワインバーの居抜き店舗。「内見でどんどんライバルが出て来て、急かされた感もあるけれど、10坪のサイズ感が希望に合っていた。実際に開店してみても思うけど、客層もとても良い。賃料がちょっと高いのがネックでしたが、スケルトンから一から造ると1000万はいってしまうかなと思い、そこは勝負に出ました」。大澤さんが構想した新店舗は、「ドリンク1~2杯に対してフード1品をつまんでもらえるようなゆったりとした居心地の良い空間」。内外装工事では、そうしたイメージに合致した雰囲気づくりにこだわり、デザイナーと相談しながら、重厚感と暖かみのある壁色に全体を統一し、落ち着きある店内空間を造り上げた。

料理へのこだわりも接客も思いのまま
「ひとり営業」の良さを最大限に活かした営業スタイル

大澤さんのお店には「ひとり営業」の良さが如実に現れている。既に方針やメニューが決まっている大手チェーンと違い、個人店では自分の納得できる味を追求できる。大澤さんも素材探索やメニュー開発に力を注ぐ。Oeldの顔であるスパイスは、上野、目黒、西葛西などで営業しているインド人のオヤジさん達の店を自ら周って仕入れる。こうした店のスパイスは、香り、粒の大きさ、鮮度が全然違い、スーパーでは見られない珍しい種類も手に入る。例えばインドではチャイに使われる「アムチュール」(未成熟マンゴーを乾燥して粉末化したもの)というスパイスがあるが、大澤さんはこれを加えて作った自家製ミルクキャラメルをコーヒーに添えて出している。こうした裏話から顧客との会話に花が咲くこともある。コーヒーも酸味の一切ないダークロースト。「コーヒーはなかなかこだわりなので飲んでくれる人がいると嬉しい。端から端まで何でもじゃないですけど、やれることはこだわっていきたいなと思いますね」。

メニュー開発の方法もユニークだ。Oeldには季節ごとに農家から様々な野菜が直送されてくるが、扱いに困った食材があった時の対処法は、ずばり「目の前に置いてひらめきが出るまで待つ」こと。以前、大根の料理法に悩んだ時は、カウンター前にそのまま放置。2~3日して「おでんかなぁ」とふと思い、大根でハンバーグを挟んで洋風だしで煮た「9代目煮込みハンバーグ」(現在は14代目)の誕生に繋がったという。完全ワンオペ営業のため、円滑に店を回すための工夫も欠かさない。イタリアンの影響も大きく受けている大澤さんの店には実はパスタメニューが無い。それは、アルデンテのタイミングに合わせようとするとどうしても来客対応が遅れてしまうから。その代わりに素麺を使った温かなにゅうめんメニューを導入。これなら2分で茹で上がるし、後はあらかじめ用意しておいたソースと合わせ乳化するだけなので接客を犠牲にしなくて良い。

融通の利く柔軟なサービスもOeldの持ち味のひとつだ。週毎のスピードで料理もドリンクも内容が変化して内容更新が追いつかないので最初からメニューブックは置いていない。黒板に書かれたメニューと大澤さんのトークがその代役を務めている。「お客さんが座ったら、お寿司屋さんみたいに『今日ネタ何あるの?』という感じで、話しながらその日の料理やドリンクを提案していく。裏メニューもちょこちょこあります。お客さんだって飲みたいものはいつも違うし、何よりこんな小さい店なのに、顔を合わせず下向いてメニューを見てばかりだったらつまらない。それだったらこのお店のスタイルでいいかなって。やりやすいようにやってます、自分のやりたいように。ストレスフリーです」。

人と人は助け合い
他力を借りてより多くの人に応援してもらえる店を

もちろん、一人での飲食店営業には大変なことも山ほどある。大澤さんが月2回の休みをようやく取れるようになったのも、この10月からのこと。それでも、自分のアイディアを料理という形で表現し、その料理で多くの人に喜んでもらう。これ以上の喜びはなかなか無いだろう。現在の主力客層は年配の男性陣が2~3割。残りはご新規の方だが、あまり人の流れがない地帯のため、近隣の方をどれだけ呼び込めるかが勝負という。そこで意外に効果を発揮しているのが、付近で開業する飲食店との顧客の相互紹介である。「うちのプレオープンのときにワインバーの方が来てくれて、その店のお客さんに紹介してもらったり、和食屋さんに二軒目づかいの店として紹介してもらったことも。この辺りは基本的に常連さんとして行きつけのお店に行ってしまう人が多いんです。初めての店はスタッフと最初から関係築くのが面倒くさいですからね。だから、紹介してもらえるのは本当に嬉しい。飲食というのは客の取り合いかなと思ったんですけど、いいコミュニティーです」。向こう1年程はOeldの更なる盛り上げに専心しつつ、3年後には新業態での二店舗目出店も視野に入れる。

これから飲食店開業を目指す方々に向けてはこのようなアドバイス頂いた。「可能な限り自分のツテを使うこと。僕は看板や内装のデザイナーから施工会社、カメラマン、お花屋さんまで、知人への依頼や紹介で随分安くしてもらったり、プレゼントしてもらったり助けてもらった。多分やっちゃえばもう気合入れるしかないです。だから『みんなのお店』になってもらえるように頑張ればいいと思います。自分のお店だけど、何かしら他の人が携わったところがあって、その部分はその人の店でもあるというような。そんな店だから自分も頑張れるんです。新しく置いたテーブルも、実はお客さんからもらったものなのですが、その方も『ただオークションで売るのではなく、頑張ってくれる人に使ってもらいたい』って言っていました」。個人店は料理において素晴らしい技術と質を持つ店が多い。それにプラスして、大澤さんのように「他力」を上手く活用するオープンマインドが加われば、より一層多くの店の盛り上がっていくように思えた。
(取材日:2016年11月29日)

大澤 直也さん
1987年、東京都生まれ。幼い頃より調理師を目指し、高校時代に地元のスイス料理で調理補助兼接客を担当。2005年、服部栄養専門学校入学。卒業後、東京及び大阪のフレンチ、イタリアン、バーなどの諸店舗を経て、16年7月、代々木公園に「Spice&Wine Oeld(エルド)」をオープン。ヨーロッパ全土を巡る中で出会った各国の煮込み料理を中心に、薫り高い27種のスパイスを駆使したオリジナルメニューが話題を呼んでいる。

Spice&Wine Oeld
住所:渋谷区上原1-1-23 ステイエム代々木公園 1F
TEL:03-6804-7713
営業時間:17:30〜27:00(※26:00までに来店)
定休日:第2・第4水曜日
店舗情報:HPFacebook食べログ


Written by 飲食店の居抜き物件なら!居抜き店舗ABC
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