開業者インタビュー

「朝三暮四」の戒めを胸に目先の利にとらわれず大事なものは守り抜く

関野 隆文さん
「朝三暮四」の戒めを胸に目先の利にとらわれず大事なものは守り抜く

「住みたい街」として人気急上昇中の北千住
他店とは一線を画す出色の海鮮和食料理店

JR常磐線、東京メトロ千代田線、日比谷線、東武伊勢崎線、つくばエクスプレスの5路線が乗り入れる北千住駅は、全国屈指の巨大ターミナル駅である。2000年代より駅前の再開発によって商業・住宅複合施設「千住ミルディス」やペデストリアンデッキが整備され、2012年には千代田区から東京電機大学が移転。庶民的な佇まいから、現代的で住みやすい街へと姿を変えた。その一方、西口線路沿いの狭小路地に数多の居酒屋が集う「飲み屋横丁」はじめ、かつての雑多な雰囲気を残すスポットも健在であり、新旧の文化が共存する魅力的な街として人気が高まっている。

本日訪れる『さかなや別邸』は、飲み屋横丁から少し入った路地に構える、2016年7月15日オープンの海鮮和食料理店であるシンプルな外観の玄関から、印象的な玉砂利敷きの間を通って入店すると、高級感ある純和風の店内空間に迎え入れられる。店主の関野隆文さんは、地元・足立市場での鮮魚仲卸歴20年。長年の経験で培った目利きの腕で旬の鮮魚を厳選し、天然物にこだわった看板メニューの「お造り」(2200円)はじめ、それぞれの魚に適した熟成法、調理法により、その時々の海の幸を最も良い状態で楽しませてくれる。

関野さんによれば、「お客様の最多層は50~70代の方々。一度来て気に入ってくださって、次はお子さんやお孫さんたちと記念日などに会食に来てくださるというパターンが一番多いですね」とのこと。ビジネスでの接待・会食のニーズも多いそうだ。低価格の店に人気が集まる昨今にあって、高単価ながらこの店が評判を呼んでいる理由はどこにあるのだろうか。これまで長年、鮮魚と飲食業に関わってきた関野さんに、これまでの軌跡や繁盛店づくりの秘訣、飲食店経営に込める思いについて詳しくお話を伺った。

仲卸歴20年を経て飲食業へシフト
ピンチから一転、名物海鮮丼で地域一の行列店に

関野さんが仲買人となったのは二十歳の頃。当時かなりのやんちゃ者だった関野さんは毎日朝帰りの生活を送っていた。ところが、ある朝、和食割烹を営む父親に起こされるなりスーツを着せられ、有無を言わさず連れていかれた先が足立市場。翌日には仲買人デビューを果たすことになった。「明日からここで働けって(笑)。すぐ辞めちまおうと思っていたんですけど、やってみたらその時の市場は所得も悪くないし、自由な時間も多い。で、ズルズルと20年ちょっとやってたんですね」。

仲買人は、市場で卸売業者から鮮魚を競り入れて小売業者に卸す「仲卸」という重要な役割を担う。都内唯一の水産物専門の中央卸売市場として名を馳せていた足立市場での仕事は、やりがいもあった。しかし、鮮魚の売上減少や流通経路の変化により、仲卸業の先細りは目に見えており、30代に入る頃にはすでに飲食店へのシフトを考えていたという。そんな時に舞い込んだのが、市場で常連客だった寿司屋の閉店話。「そこの大将から“店やめるんで良かったらやんないか”と持ちかけられたのが飲食店開業のきっかけだったんです」。

両親が飲食店を営んでいたこともあり、食の世界に入るのに抵抗は無かった。職人を呼び、実妹にも入ってもらって、譲り受けた店で2009年に開いたのが、同じ北千住にある海鮮居酒屋『市場食堂さかなや』である。だが、店の立地に少々難があった。駅から徒歩15分もかかるその店では集客に苦戦し、3~4年は鳴かず飛ばずの経営状態。これは何とかしなくては……。関野さんが起死回生の策として出したのが、新鮮な魚介を盛りに盛った迫力の豪華海鮮丼だった。これがメディアに取り上げられたことで、知名度が一気に上昇。今では地域内外から客が押し寄せる北千住一の行列店に成長した。

開店からしばらく経ってからの増店を決意したのは、『さかなや』の止まらない繁盛ぶりが理由だった。「金土はかなり先まで予約で埋まり、申し訳ないことに何組もお断りしなければならない。その受け皿が必要でした。あと、向こうはたいへん大衆的な店で、店内分煙、カウンター以外は全部小上がりなんで、“すごい美味しいけど接待には使えない”、“煙が気になる”、“座敷は膝が痛くて嫌だ”、という方も結構いて。それで向こうのダメな要素を全部こっちでやって、椅子席・完全禁煙の丸っきり正反対の雰囲気の店をつくろうと思い立ったんです」。最初は全く同業態での増店も考えたが、それでは駅から遠い1号店の客足が遠のいてしまう。接待・会食・記念日などの需要に的を絞った高級路線の店を新たに開くことで、全体的な顧客パイの増加を狙った。

入りづらい雰囲気をあえて出した異色の店構え
既存店とは真逆の高級志向で勝負

増店に際しては、構想に相応しい物件を、じっくり5年ほどかけて選定した。北千住であることは絶対条件。駅近、路面店、でも人通りの少ない静かな立地で――現店舗はこうした希望を全て満たし、なおかつ新築物件で綺麗だったことが決め手となった。ネックは北千住の相場からいうと3割ほど高い家賃だったが、「自信が無ければ2店目は出せない。これまでの経験や売上試算からも回収できるという見込みはあった」と物件取得を決断した。

新築スケルトン物件だったため、まったく一からの店舗造営となった内外装工事では、1号店との差別化を徹底するため、常識に反して“入りづらい外観”にこだわった。「デザイナーさんに頼むときも“とにかく入りづらい店にしてくれ”って言ったんですよ。看板も出さないストイックな感じで。だからあえてこういう二重扉にしてるんです。酔っ払いとかがフラッと入るような店にはしたくないから」。店内も意識的に席数を減らし、カウンター8席、個室8席、半個室の4人掛けテーブル×2卓の計24席と余裕ある席構成を取った。

新店では料理のクオリティもグレードアップ。36歳の若さながら和食歴20年を誇る岩城裕一郎料理長を新たに迎え入れ、職人技が必要な高度な和食メニューの提供が可能となった。『さかなや別邸』には鮮魚以外にも、フォアグラを包み込んだオムレツにトリュフを添えた「至極のオムレツ」(1500円)や「国産からすみ蕎麦」(1500円)など、ユニークなスペシャリテが豊富に用意されている。これらは、関野さんが平素から行っている食べ歩きで閃いたアイディアを、岩城さんが試作して実現化したもの。関野さんも、市場への鮮魚買い付けには今でも自ら赴き、店の板場で魚捌きに腕を振っている。

オープンから半年が経ったが、この間には意外なこともいくつかあったという。「まず一番大きかったのは、1号店のお客様がこちらに来ないこと。皆さんやっぱり興味はあって店頭までは来られるんですけど、敷居が高そう、って入ってこない。もう一つは、こういう造りの店なんで求められるサービスが想像以上に高かったこと。1号店と同じ接客をしてさんざお叱りを受けました。店のスタッフに対する教育も最初すごい悩みましたが、あんまりかしこまり過ぎるとお客様が緊張しすぎちゃってそれもまたまずい。そんな時はわざと僕がおちゃらけたりして場を和ませることもあります」。こうした小さなエピソードに、関野さんの厳しくも温かな人柄が滲み出る。

朝三暮四に陥って自分の軸を見失うなかれ
今後もサービス向上に一路専心

今後、より料理・サービスの質を上げていくため、『さかなや別邸』の完全予約制への移行を関野さんは考えている。そのためには、来客数も知名度もまだまだ足りないというが、不要な混雑を招かないために、メディアの取材依頼は厳選して受けるようにしているそうだ。薄利多売ではなく、それ相当のお値段となっても本当に美味しい鮮魚を召し上がっていただきたい、そして、その志に賛同してくれるお客様を心から大切にし、一期一会の精神でおもてなしを尽くしたいーー関野さんの店舗運営はそうした思いに貫かれている。「うちは客単価が高いのでおひとり1万円いくこともしばしばです。でも、自分達にとってはいつもの1万でも、お客様にとっては特別なスペシャルな金額。その気持ちは絶対忘れちゃダメだと、店のスタッフにはいつも言っています」。

こうした考えに基づいて、これから飲食店開業を目指す人々に向けても、次のようにアドバイスする。「まずブレないこと。売上不振になると必ず皆さん値下げするけどそうするとよくないです。だったら料理やサービスを見直すいい機会と捉えて一からやり直すべき。うちも最初の店は3年間ぐらい赤字続きでしたけど、何とかやりくりして路線を変えず、お客様の口コミがメディアに掲載されてバンといった。あとは運転資金。自分が思っているより3倍取った方がいいです。よく3ヶ月分というけど、最低1年分は確保した方がいい」。

こうした関野さんの経営哲学は、店の随所に掲げられた「朝三暮四」の言葉に象徴されている。飼い猿に与えるトチの実を1日7個に決めたところ、朝に3つ与えると猿は怒り、4つ与えると喜んだ。目先の利に囚われ大局を見失うことなかれ、という教えを示すこのことわざを、関野さんは固く自戒としている。「どんなに繁忙でも、席が空いているとお客様を入れたくなってしまうものですが、どうなるかというと、誰も注文を取りに来ない、注文しても料理が出てこないでしまいには怒って出ていってしまう。その日の売上はいいかもしれないけど、結果としては悪いことですよね。だから、こっちの店では忙しい時は空席があってもお断りしちゃうんですよ。その日の売上を逃しても、満足いくサービスを提供して2回目来てもらった方が利口なんですね。これが結構苦しいところではありますが、前の店でさんざ勉強したんで」。

自分達が用意できる最上の料理を、最上のサービスで提供する。今後もこの基本を見失わず、スタッフと共に力を合わせ、理想の店づくりに向けて精進したい、と語ってくれた。
(取材日:2017年2月14日)

関野 隆文さん
株式会社オンズ代表取締役。1973年、東京都生まれ。二十歳の頃より約20年間、足立中央卸売市場で鮮魚の仲買人を務める。2009年、北千住に『市場食堂さかなや』をオープン。特製の豪華海鮮丼がメディアに取り上げられたことからブレイクし、大行列の人気店となる。2016年、同じく北千住に『さかなや別邸』をオープン。長年の仲卸歴で養った目利きの腕を活かして、旬の最上級の魚介類による和食料理を提供。接待や会食など特別な日の場として早くも定評を得ている。

さかなや 別邸
住所:足立区千住1-31-12
TEL:03-5284-7214
営業時間:ランチ:11:30~14:00 (L.O13:30)/ディナー:17:00~22:00(L.O21:30)
定休日:年中無休
店舗情報:食べログ


Written by 飲食店の居抜き物件なら!居抜き店舗ABC
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