インタビュー
居抜き開業を成功させたオーナーに、成功の秘訣や開店までの裏話などを伺います。

「和牛× ワイン× 大衆酒場」
都心の隠れ家・南新宿に粋な酒場がオープン

 小田急線の南新宿駅周辺エリアは、高層ビル群を借景として昔ながらの商店街や瀟洒な住宅が並ぶ、都心の中にあってほっとできる憩いの街である。JR 代々木駅にもほど近い便利なこの街に、2016 年4 月、新たに大人のための粋な酒場がオープンした。極上和牛のオリジナル料理と、日本一の品揃えというご当地ワンカップワインのコレクションが話題の「大衆肉処酒場コンロ家」である。

 駅改札右手に見える看板に引かれていくと、「肉鍋」「ホルモン」「ワイン」と楽し気に揺れる白提灯が道行く人を店へと誘う。階段を降り、まるで隠れ家のような半地下の店内に入ると、海外誌なら”ジャパニーズ・バル”と評されそうなお洒落な空間が広がっている。つい半年前には、ここが昔ながらの中華麺屋だったとは誰も気づかないだろう。「女性も入りやすい、ちょっとスタイリッシュな大衆酒場をコンセプトにしました」と語るのは、店主・料理長の頼富晋也さん。一番の人気メニューは、関東ではここしかない「神戸牛ホルモン鉄板焼」とA5 和牛を贅沢に使用した「霜降り和牛鍋」。滋味あふれる味もさることながら、その鮮やかでインパクトある姿で宴席を盛り上げてくれる逸品である。近隣の住民やサラリーマンに加え、最近では意図どおり女性客も増えつつある。一度来店した方が、かなりの率でリピーターとなってくれるのも嬉しいという。

極上食材、パートナー
独立開業の道を開いた「人とのご縁」

 香川県で寿司店を営む両親の元に生まれた頼富さんは、実家を継ぐことも考えて、大学卒業後、飲食の道に入った。「車( くるま) 」、「えん」などの大手和食居酒屋店や寿司店、割烹店などで厨房経験を積み、「これからどうしようか」と考えていた矢先、知人の誘いを受け、07 年に東京へ。恵比寿、青山、六本木、鎌倉などでNY スタイルのカフェ・ダイニングを展開する「マーサー・オフィス」の総料理長に就任し、同社の黎明期から新規店舗の立ち上げに多数関わってきた。

 頼富さんのこれまでの歩みには、常に”人とのご縁”が光っている。独立開業を決意したのも、マーサー時代の”出会い” が大きい。神戸牛農家を親戚に持つ友人は「なんぼでも力になるから」と、力強く独立を後押ししてくれた。通常、神戸牛のホルモンは、ほとんどが海外に流れていってしまう。その流通を確保したことで、関東唯一という強い優位性を持つ食材を手に入れることができた。現在、副社長・ソムリエ・ホールを務める蒲池章一郎さんとの出会いもマーサーだった。上司として蒲池さんの切れある仕事ぶりに常々感銘を受けていた頼富さんは、「どうや? 」と、開業のパートナーとして迷わず声をかけた。

初開店の地は南新宿
トラブル連続だったオープン準備期間

 蒲池さんの快諾を得て、15 年春から本格的に物件探しを開始。初期投資を抑えるため、当初から居抜き店舗にターゲットを絞り、半年程たった頃、南新宿の現物件を見つけた。初めて内見したときの印象は「正直、きたないな~ 、と」。ベニヤ材の床は老朽化していて歩くのも大変な状態。内装費がかさむことが懸念された。南新宿駅の乗降者数は1 日3 , 700 人ほどで心もとない。店前の人通りが少ないのも気になった。だが、新宿・代々木エリアからの集客が見込めること、そして、ここでも人のご縁がはたらき、施工会社の友人が「利益が出なくてもいいから力になる」と、格別の料金で改装を請け負ってくれたことから、「いける」と判断し、契約を決めた。

 オープンまでの期間は予想もしなかったトラブルの連続だった。引き渡し日に店に入ると、前店舗から引き継ぐはずだった製氷機やガステーブルが、見当たらない。丸ごと持っていかれてしまっていたのだ。急遽、新しい機器を手配したが、そのせいで当初予定の4 月1 日から7 日にズレこんでしまった。残されていた冷蔵庫もオープン2 日前に故障が判明。精肉を扱うための必須設備の回復のため、対応に追われた。開店後にも、クーラーを稼働させたら、排水と防水の不備のためか、壁から水が浸み出るというというトラブルが発生。使ってみないと分からない不具合があるのが居抜き物件の難しいところだ、と感じるという。

いつも「遊び」を忘れずに
人気店を支える誠実なホスピタリティ

 こうした数々のトラブルに遭遇しつつも、頼富さんの経営方針は「楽しくやろうよ」。利益を上げるのも勿論大切だが、「遊び」を忘れないでいたい、と語る。コンロ家を訪れる人は、店内に散りばめられた” 遊び心”にぜひ注目してほしい。壁に貼られたユーモアたっぷりの「コンロ家新聞」、手作り感満載のダンボール製メニューブック、これらはいずれも蒲池さんの作によるもの。

 ソムリエ、利き酒師、中国酒類鑑定士など7種に及ぶ資格を持つ飲料のエキスパートは、デザイン・広報分野でもその溢れんばかりの創造性をいかんなく発揮している。もうひとつ、コンロ家を貫く理念には”無私のホスピタリティ” があると感じられる。頼富さんは、お通しの「霜降り和牛の炙り寿司」を、開店3ヶ月記念の7月中は無料で、8月以降も29円(!) で提供する。もちろん店としては赤字である。縁あって手に入れたハモン・セラーノも、ワインボトル注文の方に無料で振る舞っている。お客様に喜んでいただくことを純粋に目的とした誠実なおもてなしは、頼富さんの故郷・香川伝統のお遍路さんへの「お接待」を彷彿させるようだ。都会の真ん中の洒落た店にあって、人情を感じるサービスに触れられること。それがコンロ家の底力なのだろう。

 最後に、これから飲食店開業を目指す方々へのメッセージをお願いすると、「自分なんかがおこがましい」と実直な面持ちではにかみつつ、「やっぱり、造作設備の引き渡しなどは、きっちり詰めておいた方がいいですね」と、自身の経験を踏まえて語ってくれた。今後の展開に関しては、「11 月オープンを目指して2 店目を準備中。コンロ家と同業態だけでなく、地元・香川の地鶏料理の店なども企画していきたいです」と語る。南新宿店も和牛鍋が本番となる冬期のさらなる人気爆発を期待する。3 ヶ月後、6 ヶ月後には全く新しい顔を見せてくれそうで楽しみな店だが、きっと、そこにはいつも頼富さんと蒲池さんのあたたかさが満ちていることだろう。
(取材日:2016年8月9日)

頼富 晋也さん
株式会社頼富商會代表取締役。1980 年、香川県生まれ。大学卒業後、和食居酒屋、割烹店などで調理キャリアを重ね、07 年よりMERCEROFFICE株式会社、総括料理長。16 年4月、蒲池章一郎氏とともに、南新宿に「大衆肉処酒場コンロ家」をオープン。関東唯一という神戸牛ホルモンやA5 霜降り和牛鍋、豊富に揃えたご当地ワインセレクションがリーズナブルに味わえる店として人気を呼んでいる。

大衆肉処酒場 コンロ家
住所:渋谷区代々木1 -52- 5 ベルテ南新宿B1
TEL:03-6383-4866
営業時間:月~金 17 :30~23:30/土 17:00~23:00
定休日:日曜、祝日
店舗情報:Facebook食べログRetty